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FASHION MEDIA CHRONICLE #04/柔軟な価値観を持つ世代とシームレスにつながる MEN’S NON-NO ブランド統括・WEB編集長 丸山 真人さん(写真:右) MEN’S NON-NO プリント版編集長 吉﨑 哲一郎さん(写真:左)

加速するデジタルシフト、多様化する価値観やライフスタイル。目まぐるしく変化する現代社会において、メディアの在り方も日々進化しています。変わり続けることと、変わらないこと。ファッション情報を届けるメディアの「今」と「これから」に迫ります。今回は1986年の創刊以来、日本のメンズファッションシーンをリードし続ける『MEN’S NON-NO』のブランド統括・WEB編集長丸山真人さんとプリント版編集長吉﨑哲一郎さんに話しを伺いました。

変遷するファッションへの価値観

―『MEN’S NON-NO』のコンセプトや現在の方向性についてお聞かせください。

丸山さん:ファッション、美容、ライフスタイル、カルチャーなど全方位からの「カッコいいの発信源になる」というコンセプトは創刊時から変わっていません。読者のボリュームゾーンは10代後半から20代。この世代は全般的に価値観が柔軟で、固定観念にとらわれない自由さを持ち合わせている印象があります。例えば、今の若い男子はパールや透け感のある服などのフェミニンなファッションや、脱毛などの美容も好意的に受け入れ、自分のスタイルに上手に取り入れます。そんな彼らに対して、我々は「これがトレンド!」「これをやらねば!」と圧をかけるのではなく、『MEN’S NON-NO』というフィルターを通して、「こういうおしゃれもあるよ」「こんな美容方法もあるよ」といった提案を、雑誌とWEBの両軸で発信しています。

―昔と今とでは、読者像にどのような変化を感じますか。

吉﨑さん:おしゃれに対する関心領域が多様化したことがいちばんだと思います。僕が最初に『MEN’S NON-NO』に携わった2000年代初頭は“おしゃれな人=ファッションにこだわっている人”で、所得のほとんどを洋服代につぎ込む人も珍しくありませんでした。今は、ファッション以外にも食事だったり美容だったり、ライフスタイル全般に気を配っている人が増えています。弊誌も、 “ファッション×食”、“ファッション×美容” のように、より暮らしとリンクした形でファッションを見せるよう意識しています。

丸山さん:人とファッションの関わりを考えると、若い頃に培った経験や価値観、アイテムやブランドとの強烈な出会いって一生モノの記憶になるんじゃないかと思うんです。もちろん年齢を重ねるごとに好みも手にするアイテムも変わる。けれど、感受性の強い、多感な時期に得たインスピレーションはきっと忘れないし、その後の人生に彩りを添えるものになるのではと。そんなファッションとの出会いの場を提供するのも我々の使命であり、そこは昔も今も変わらないと思っています。

時代の先駆となったメンズ美容と専属モデル

―『MEN’S NON-NO』といえば、歴代のモデルの顏ぶれの豪華さも知られるところです。

吉﨑さん:創刊号の表紙が阿部寛さんですからね。現在、専属のメンズノンノモデルは23人いるのですが、俳優としても活躍するなど、それぞれが自分の持ち場で頑張りながら、『MEN’S NON-NO』ではファッションモデルとして一丸となって活躍しているのが特徴です。読者にとって手の届かない遠い存在ではなく、自分を投影しやすい“一歩先”の存在であることが読者に支持されている理由だと思います。今年のモデルオーディションも佳境に入っており、10月には新たな専属モデルが決まります。どんな顏ぶれが誕生するのか、僕たちも楽しみにしています。

―メンズ美容の充実ぶりも『MEN’S NON-NO』の特徴ですよね。

丸山さん:恒例行事になっているベストコスメアワード『MEN’S NON-NO美容大賞』は、今年で10周年を迎えます。世間では、コロナ禍を機にメンズ美容が広がったと言われていますが、『MEN’S NON-NO』はその前から注力しており、昨今、他の男性メディアでも美容を強化していると伺いますが、ボリューム感や経験値でいっても我々がまだリードしているのではないかと自負しています。

まずは作り手の自分たちが楽しみたい

―力をいれていきたい企画など、今後の展望についてお聞かせください。

丸山さん:特にWEBでは、これまでやったことのないジャンルの記事を出すことを自分のミッションとして持っています。僕自身、「こんな企画を『MEN’S NON-NO』がやるんだ!」といった感想をいただくのがすごい好きで。これまでの例ですと、男性ファッション誌への露出が日本では珍しかったタイの人気俳優さんのインタビューだったり、お笑い芸人さんにファッショナブルな服を着てもらう企画だったり。他のメディアでは見られない企画だけに、エディター側としても作っていてとにかく面白い。ワクワクを届けるためには、自分たちがワクワクすることが大前提ですよね。

吉﨑さん:僕も同感です。自分たちが楽しんでいることは必ず読者に伝わると信じています。雑誌を読むことが決して当たり前ではない時代だからこそ、雑誌を手にしてページを開いてみないとわからない楽しさを届けたい。SNSは、自分が好きなものや興味のある情報が流れてくるアルゴリズムのおかげで利便性が高い半面、意外な出会いや驚きが生まれにくい側面もある。誌面は、そうした未知の“ワンダー”を提供する場でありたいと思っています。また、食とファッション、ヘアスタイルとジュエリーなど、一見脈絡のない点と点をつなぐような、新しい視点・文脈の企画を考えたい。同時に、プリント版ではデザインを含め大人っぽく強いビジュアルに刷新して、雑誌のフィジカルな魅力を打ち出していきたいです。なお、2024年の1-2月合併号の増刊版では『SPY×FAMILY』、7月号の増刊版では『鬼滅の刃』と、人気アニメの描きおろしビジュアルが表紙を飾りました。『MEN’S NON-NO』は、それだけ自由で、ジャンルの垣根にとらわれない雑誌だという象徴でもあります。こうした施策は、今後も積極的にやっていきたいです。

―では広告代理店に期待することがあれば、ぜひ教えてください。

丸山さん:SNSやYouTubeを使って誰もが情報を発信できる世の中だからこそ、逆にユーザーは信憑性や信頼性を頼りに情報を精査しなければならなくなった気がします。そうしたなか、我々の強みといえば、歴史あるメディアだからこその信用やセンスだと思うんです。そうした強みの打ち出し方を一緒に探っていただければ嬉しいです。例えば、思い切った屋外広告のようなリアルなものと絡めるなど、発信の場や方法に関していろんなアイデアの中から作戦を立てられたら、さらにできることが増えると感じています。

吉﨑さん:前例のないタイアップ手法にもどんどんトライしたいと思っています。『MEN’S NON-NO』は旬の俳優やタレントの発掘・ブッキング力に強いメディアです。おかげさまでそうした人選の起用に関するご相談をいただくことが多く大変ありがたいですが、「そもそもの企画の切り口や構成でいいアイデアがないか?」といった、もっと手前の段階のご相談も大歓迎です。ぜひお気軽にお問合せいただけたらと思います。

MEN’S NON-NO ブランド統括・WEB編集長 丸山真人さん(右) 小学生の頃から率先して学級新聞を作るなど、文字とビジュアルで物事を人に伝えることが大好き。情報を発信するメディアに深く関わりたいという思いから、1998年集英社に入社。『non-no』、『BAILA』、『UOMO』、『éclat』を経て、2019年から『MEN’S NON-NO』編集部に在籍。21年にWEB編集長となり、24年6月より統括編集長を兼任。

MEN’S NON-NO プリント版編集長 吉﨑哲一郎さん(左) 『週刊少年ジャンプ』がすべてだった幼少期。今度は自分が人をワクワクさせる立場になりたいと、2003年集英社入社。初配属となった『MEN’S NON-NO』に13年間在籍したのち、『UOMO』編集部に異動になり、21年副編集長就任。24年6月『MEN’S NON-NO』へ異動しプリント版編集長に就任。

Photo: Rio Kotera

Text: Tomoko Hori