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FASHION MEDIA CHRONICLE #16 “共感×寄り添い”でひもとく、Z世代の“真ん中” 『MERY』統括編集長 平山彩子さん

価値観が細分化し、正解のない時代。メディアに求められているのは、情報の速さや量だけでなく、「どんな視点で世界を切り取るのか」という意思なのかもしれません。変わり続ける環境のなかで、何を更新し、何を守るのか。FASHION MEDIA CHRONICLEでは、ファッションメディアを率いる編集長たちの言葉を通して、時代と向き合い続けるメディアの「現在地」を探ります。今回は、2013年誕生以来、Instagram・TikTokを中心に11アカウント・総フォロワー180万人超を擁し、Z世代女性へのアプローチを強みとするデジタルメディア『MERY』の統括編集長・平山彩子さんにお話を伺いました。

若者探求を深めるべく、『MERY』にジョイン

―はじめに、平山編集長の経歴を教えてください。

編集の仕事に興味があり、新卒で株式会社リクルートに入社し、結婚情報誌『ゼクシィ』編集部に約14年間在籍しました。後半の7年間は編集長としてPRやブランドマネジメント、CM制作にも関わりながら、並行して、次世代の結婚観を探り、未来の結婚式を予測するユーザー研究にも力を入れていました。結婚という人生の節目に向き合うなかで、ライフステージ毎に変わっていく個人の価値観と、時代の変化や社会の潮流がかけ合わさり、マーケットがアップデートされていく。その面白さを知りました。そして私の中で「結婚」というテーマ以上に、関心が高まっていったのが「Z世代」でした。自分の世代とは異なる情報接点を持ち、すべてが見える化される世界の中で、彼ら・彼女らはどんな強さや弱さを持っているのか――ライフワークである世代研究をさらに深めたい気持ちが強くなり、2022年に株式会社MERYに入社しました。

―『MERY』で掲げているメディアコンセプトを教えてください。

“Update my happiness”がコンセプトです。『MERY』を覗くことで日々の自分の幸せを少しずつアップデートできる――そのきっかけになることを目指しているので、ユーザーと同じ目線で、押し付けにならない「共感×寄り添い」型の発信を心掛けています。具体的には、新作コスメの色選びから、グルメ、映画、推し活まで、日常のあらゆる場面で「気になる」「好きかも」という小さな発見を提案しています。重要なのは、それを「教える」のではなく「一緒に考える」スタンスです。例えば結婚に関する投稿も、最初の投げかけが重くならないように気をつけたり、何かを教えるコンテンツでもクイズ形式で「みんなはどう思う?」と問いかけたり。私たちが大切にしているのは、「正解」を押し付けたり、偏った視点で世界を切り取ったりしないこと。Z世代は多様性を当たり前のものとして生きてきた世代だからこそ、その価値観に寄り添うにはこちらもフラットでいる必要があります。「一緒に考えよう」「みんなはどう思う?」という目線は、編集部のメンバー全員が大事にしていることです。

SNSというプラットフォームがもたらした変化

―入社してからの4年間で『MERY』はどのように変化しましたか?

現在はメディア以外の事業も行っていますが、入社当初はメディア(主にアプリとWebサイト)運営がメインでした。統括編集長として事業構造もみていく中で、Z世代の主な情報接点がSNSに移行していると感じ、2023年からはSNS(Instagram、TikTok)に振り切る決断をしました。現在のWebサイトは、Z世代に向けた発信の場というより、マーケターの方々にZ世代のインサイトを届ける発信拠点として位置づけています。おかげさまで、これまでに500社以上のブランドとのお取引実績を積み重ねてまいりました。もちろん主戦場としているSNSでも変化はあり、4年前は40万人だったInstagramのフォロワーが約60万人まで増えました。フォロワー数は20〜30万人くらいから鈍化する傾向がありますが、ここまでの増加は正直、想定外でした。そしてこの増加した新しいフォロワーには興味深い背景が見えてきたんです。アプリやWebサイトが主だった頃からフォローしてくれている層は、情報発信元である『MERY』という存在を意識してくれていますが、SNS時代から出会った新しいフォロワーは、『MERY』という名前や存在を意識していないんです。ただ「好きなコンテンツ」を摂取していたら、結果的に『MERY』をフォローしていた、という現象が起きています。こうした変化は、SNSというプラットフォームの特性から必然的に生まれます。紙の雑誌なら「表紙」で『MERY』というブランドを明示できますが、SNSではプラットフォームに吸収されてしまう。だからこそ、独自の世界観を強く打ち出すだけではなく、 「共感×寄り添い」という戦略が必要になったのです。私も紙メディア出身なので、着任当時は「もっと明確に独自性を出すべきではないか」という葛藤もありましたが、Z世代の代弁者であり続けるためには、寄り添い型であるべきだと気付き、今もそれを貫いています。

―フォロワーが増加した理由は日々の発信の積み重ね、ということですね。

そうですね。もちろんバズが起きればプラットフォーム上での露出は上がります。でもそれを狙いにいけばいくほどアルゴリズムに引っ張られ、『MERY』らしさが薄れていきます。「自分たちが届けたいものを届ける」という信念と「これが気になるなら、これも気になるはず」という連動性を意識しながら、当事者と同じ空気を吸って発信する。その地道な積み重ねが、結果的にフォロワー増につながっているのだと感じます。

20代の感性とクリエイティビティを信じる

―実際にコンテンツを作っているチームもZ世代がメインですか?

編集部員はほぼ20代です。Z世代の当事者でありコンテンツ制作の経験も豊富なメンバーが、自分たちの感性を大事にしながら日々コンテンツを企画しています。ベテランメンバーはそれを見守り、その中から何を抽出するかや、タイアップ案件をどう展開していくかなどを議論し、チーム全体としてクオリティを担保しています。ヴィジュアルなどのクリエイティブ面では、特定のペルソナを絞り込むよりも、Z世代の“真ん中”――その世代に共通する空気感や気分を表現することを大切にしています。エッジを立たせれば立たせるほど、こぼれ落ちる人が出てきてしまう。意識的に間口を広げ、いろんな『MERY』を見せることを心がけています。

―これまでに関わった企業からの反応で、印象に残っているものはありますか?

大きく2つあります。ひとつは「なるほど、こういう切り口があったんですね!」「自分たちでは思いつきませんでした」という驚きの声。プラットフォームの傾向や、商品の良さが伝わるZ世代ならではのシーン提案などで喜んでいただくことが多いです。もうひとつは、動画に対する「あれがこうなるの!?」という反応です(笑)。手前味噌ですが、例えば、イベントプロモーション案件の動画の完成度には定評があります。ただ、撮影当日は若い女性スタッフがスマホ片手にサクサク撮影をして帰っていくので、現場の動きはとても地味に見えます。あまりの身軽さに先方も「大丈夫?」と(笑)。でも裏側では編集、ナレーション録り、キャプション作成と複数のスタッフが分業し、即日アップできるスピード感で動画を仕上げていきます。そのクオリティとスピードに感動されるケースがほとんど。若者の感性×プロフェッショナルな制作力の合わせ技に、価値を見出していただいていると感じます。

―平山さんが感じる、Z世代の傾向を教えてください。

私は、Z世代の日常的な実態を探るMERY Z世代研究所の所長も兼任しています。実際にZ世代のみなさんと座談会をしたり、各企業さんから相談を受けることも多いんです。そのなかでよく聞くのが、「Z世代は何を考えているか分からない」「いい子たちだけど本音が聞けない……」という声。でも彼ら・彼女らは、自分がどう振る舞うのが適切かを察知する能力がすごく高いだけなんです。物心がついた頃からSNSがあり、「ここでこれを言ったらまずいな」といった判断を呼吸するようにやってきた世代。本音を話す相手やタイミングにも慎重なだけで、その姿勢が“いい子”という言葉に集約されているのではないかと。どこまで寄り添って話せるか、が本音を引き出す鍵だなと感じます。

リアルとデジタルの間でメディアにできること

―Z世代に向けたメディアを率いる中で、平山さんご自身は日常でどのようなインプットをしていますか?

“生活者のリアルを知る”という観点から、普段からなるべく外で仕事をして、いろんな会話に聞き耳を立てています(笑)。ふと耳に入ってきた言葉で、点と点が線になる瞬間があるんです。例えば大ヒットした映画『国宝』と、最近気になっていた『散歩好き』。Z世代にとって、散歩に出てデジタルから離れる感覚と、映画館で『国宝』に没入する感覚は、すごく近い。背景にあるのはデジタルデトックスの文脈なんじゃないか、などなど。そうやって街に出て、気付きを得る。それは『ゼクシィ』時代も同じで、発売日に本屋さんへ行き、手に取る人を観察するのがルーティンでした。街でインプットしたことを軸にユーザーのインサイトを探るスタンスは、今も変わりません。

―広告会社に期待することはありますか?

創業当時の『MERY』の印象で止まってしまっている方々も多いと思います。メディアの形態が変わり、提供できる内容もかなり進化しています。現在はSNSを軸に、動画制作や「MERY MEET」というリアルイベントなども柔軟に提案できます。昔はメディア=枠や箱というイメージも強く、そういう意味で現行の『MERY』は分かりにくい売り物なのかもしれません。しかしユーザーとクライアントをつなぐ、ということに変わりはないので、ぜひ一緒に何か仕掛けられたらと思っています。中でもリアルイベントには特に注力していきたいと思っています。Z世代はデジタルネイティブだからこそ、リアルなコミュニケーションを欲しています。リアルイベント「MERY MEET」に参加した100名以上の20代女性の99%が「満足した!」と答えました。あらゆることがデジタル化される世の中で、ライブで得る情報や、実際に見聞きしたものの希少価値はさらに高まると確信しています。体験価値の高い場をどれだけ提供できるかが『MERY』にとって、メディアとしての価値を押し上げる大事なポイントになるはずです。今後も『MERY』というブランドを拡張し、自分たちの得意分野を増やしていきたいです。

平山彩子さん 株式会社MERY取締役CCO、MERY統括編集長、MERY Z世代研究所所長。2008年、株式会社リクルートに入社し、ゼクシィ編集部に配属。2015年よりゼクシィ統括編集長としてさまざまなメディアビジネスに関わる。2022年より株式会社MERYに入社し、現職。SNSを中心としたデジタルメディアを基軸に、MERY Z世代研究所所長も兼任し、ライフワークである世代研究にも力を注ぐ。最近の日課は美味しいお酒をのむ旅のプランを立てるためにGoogleMapを見つめること。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Yuka Sakamoto