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FASHION MEDIA CHRONICLE #10 美容コア層からキッズ、メンズまで。拡張し続ける『美的』の世界 美的編集長 中野瑠美さん

加速するデジタルシフト、多様化する価値観やライフスタイル。目まぐるしく変化する現代社会において、メディアの在り方も日々進化しています。変わり続けることと、変わらないこと。ファッションや美容情報を届けるメディアの「今」と「これから」に迫ります。今回は2001年に創刊した「肌・心・体」のキレイを追求する美容誌『美的』の編集長、中野瑠美さんにお話を伺いました。

女性週刊誌からキャリアがスタート

─中野編集長のこれまでの経歴を教えてください。

大学卒業後に小学館に入社し、最初は週刊誌『女性セブン』に配属されました。入社当初は漫画かファッション・美容誌をつくりたいと思っていたので、驚きの配属でしたが、気づけば週刊誌の編集部に約15年在籍していました。その後、国際情報誌『SAPIO』に約1年在籍し、産休に入りました。復帰後はノンフィクションの単行本の編集をしていたのですが、2017年に美的へ。約20年の時を経て、「ファッション・美容誌をつくりたい」という入社時の希望が叶った感じですね。

─週刊誌から書籍、美容雑誌という経歴を持つ方はあまりいらっしゃらないですよね。

美容雑誌を担当する編集者のキャリアとしては珍しいケースかもしれません。打ち合わせで経歴の話になると、それだけで1時間経ってしまうくらい(笑)。

─週刊誌のキャリアが今に活きていると感じることはありますか?

雑誌はエンターテインメントのひとつであり、特に週刊誌は定期購読ではなく、“面白そう”と思ってもらえなければ、手に取ってもらえない世界。タイトルやコンテンツでいかに読者を惹きつけるかが大事で、毎号面白いものをつくらないと読者に受け入れてもらえないという考えは、今も変わらず持っていますね。

ファッション誌は、例えば弊社の『Oggi』だったらコアターゲットはキャリア女性というように、読者層がセグメントしやすいですよね。一方、美容は趣味のひとつであり、読者の方にお会いすると、会社勤めの方や専業主婦、専門職の方と属性はさまざま。服装を見ても、フェミニンな装いだったり、カジュアルな雰囲気の方まで本当に幅広い層の方にご愛読いただいているのがわかります。世代的には30歳前後の女性が中心ですが、読者層はとても広いと感じています。

─美容は“趣味”になるのでしょうか?

捉え方はいろいろだと思うのですが、今の時代、趣味は生き甲斐という方も多い中で、『美的』は限りなく趣味としての美容を楽しむための雑誌としてつくっています。特に、紙媒体を手に取ってくださるのはかなりコアな方で、その方々にとって読み応えがあるものにしなければならないと思っています。例えば、近年、メンズ美容が盛り上がっており、男性タレントの方が誌面に登場することもありますが、ただかっこいいだけだと、読者に違和感を感じさせてしまう。その方の美容に対する姿勢や関心の深さ、そして誌面との親和性が何よりも大事。車の雑誌なのに、車に乗らない人が出ていたら、「なんで?」となるのと一緒だと思います。

創刊当初から変わらないコンセプト

─『美的』をブランディングしていく上で、大切にしていることは何ですか?

「「肌・心・体」のキレイは自分で磨く」という『美的』のコンセプトは創刊当初から変わっていません。当時としては珍しいホリスティックな概念であり、今も制作の軸として息づいています。最近は、美容の分野でもホリスティックな視点が注目されてきていますが、『美的』では、昔から心や体の健康をテーマにした記事を充実させているので、内面的な部分に関心の高い読者の割合も高いです。自身で化粧品の検定を取得したり、美的のコンセプトを体現しようとしている方が多くいらっしゃいます。もちろんメイクなどのトレンドをお届けすることは大事なのですが、スキンケアやヘルスケア企画の充実ぶりを評価してくださるお声が多く、これは私たちの大きな財産だと思っています。

─先ほど、メンズ美容のお話が出てきましたが、読者側の変化は感じますか?

本誌を購入していただいているコアな読者層は変わっていないと思いますが、「美的クラブ」という読者組織には、男性メンバーも募集し始めました。女性は10代の頃から美容に触れてきているので、自分に合うものや、何を選んだらいいのかを感覚的に理解していますが、男性はそうはいきません。その分、本当に自分に合うものが知りたいという気持ちが強く、車やゴルフにハマる感覚と似ていて、女性以上に「趣味」感覚で没頭していく方が多い印象です。夫婦でイベントに参加される方も増えてきました。

また、美容医療に対するハードルも10年前よりも下がっているように思います。「肌管理」というワードが注目されていて、歯のクリーニングに行く感覚で美容クリニックに足を運ぶ方も増えましたね。美容医療の前後で使えることを謳うコスメも続々と発売されています。そのあたりの変化は意識して、美容医療に対するベネフィットとリスクを精査しながら、誌面でも特集を組むようにしています。

コアな読者を惹きつけながら、新しい層を取り込む

─最近反響のあった企画やキャンペーンはありますか?

最近はKビューティの企画が人気ですね。ただ、韓国コスメだけを使うということではなく、皆さん上手に使い分けをされています。デイリーのスキンケアには日本のコスメブランドですが、少しトレンドを取り入れたいときに韓国コスメを、といったように、プチプラコスメやミドルコスメに近い感覚で取り入れている方が増えているように思います。

また、年に2回くらいのペースで実施しているスキンケアの成分図鑑も人気です。注目の成分をイラストでキャラクター化し、成分の特徴から配合スキンケアの名品まで紹介しています。成分名でコスメを選ぶ方も増え、成分解説ページを切り取って持ち歩いている方もいました。顔出しをしていないインフルエンサーの投稿がXでバズるように、美容はロジックで説得力が増す面白い分野だなと思いますし、その点、雑誌との相性がいいのかもしれません。

─今後やっていきたいことはありますか?

美容誌はサンプリングの文化が根強く、付録が豪華であることは大きな売りになるので今後も大切にしていきます。一方でコンテンツの面白さでコアなファンに支持していただけるよう、信頼性の高い情報をわかりやすく発信していくこともますます重要になってくると思っています。今は、2026年の創刊25周年に向けてさまざまな施策を考えているところです。

さらにWEBメディアを上手く活用しながら、ライフスタイルや価値観の変化に対応して新たなエントリー層も積極的に取り込んでいきたいです。近年、小学生の美容やメイクへの関心が高まっていることから、2024年に弊社の漫画雑誌『ちゃお』とコラボして子ども向け美容コンテンツ「ちゃお美的」を現場の声から立ち上げました。『美的』は社内でもコラボしやすいイメージがあるようで、他の編集部から相談される機会も多く、情報誌の『DIME』と組んで、定期的にメンズ美容のウェビナーやイベントも行っています。

─コアなファン層と最近、美容に興味を持たれた方とでは情報の伝え方は変えているのですか?

読者のすそ野を広げていく上で、美容に対してあまり詳しくない方に対しては正しい情報をわかりやすく伝えていきたいという思いが強いですね。悩んだときに正確な知識があることで、日々のQOLが格段に上がりますので。個人的に“わかりやすく伝える”という考えは、以前から変わらないモットー。内容は濃いまま、いかにわかりやすくするか、というのは週刊誌時代に叩き込まれたことかもしれません。週刊誌は最初の5行で難しいと思われたら、もうその先は読んでもらえませんから。

さらに、私たちは半年先のトレンドや新製品の情報を持っていますが、読者の方が知りたいのは、“今”役立つことなんです。夏の始まりに秋のこっくりメイクが知りたいわけではなく、猛暑でも崩れないメイクが知りたい。だからこそ、半歩先の未来をさりげなく提示しながら、“今”役立つ情報を、わかりやすく、深く伝えていく。そのバランスを、これからも大切にしていきたいと思っています。

中野瑠美さん 大学卒業後、2000年に小学館に入社。『女性セブン』編集部に配属され、料理やコスメなどの実用カラーページ担当からキャリアをスタート。ポスト・セブン局に約15年在籍。産休復帰後、書籍の担当を経て、2017年3月に『美的』編集部に異動。副編集長を約5年務め、2022年10月に6代目編集長に就任。23年10月から美的ブランド室室長も兼任。コーヒーを飲む、推しの映像を見る、SF・ミステリを読む、のが生き甲斐。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Chie Sakuma