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FASHION MEDIA CHRONICLE #13 “40歳男子”の今を編む。UOMOが更新し続ける大人のミーハー感覚 『UOMO』編集長 稲葉翔さん

価値観が細分化し、正解のない時代。メディアに求められているのは、情報の速さや量だけでなく、「どんな視点で世界を切り取るのか」という意思なのかもしれません。変わり続ける環境のなかで、何を更新し、何を守るのか。FASHION MEDIA CHRONICLEでは、ファッションメディアを率いる編集長たちの言葉を通して、時代と向き合い続けるメディアの「現在地」を探ります。今回は、昨年創刊20周年を迎えた男性ファッション&ライフスタイル誌、『UOMO』のプリント版編集長、稲葉翔さんにお話を伺いました。

スポーツ誌志望の学生が、女性誌の世界に飛び込む

—稲葉編集長のこれまでの経歴を教えてください。

2004年に集英社に入社して、最初の配属は『non-no』でした。入社前はスポーツ誌を希望していて、今でいう大谷翔平選手のような有名スポーツ選手にインタビューできたらいいな、なんて考えていました。それが突然、星占いや女の子の座談会取材をやることに(笑)。全く知らない世界に放り込まれた感覚でしたね。『non-no』に6年在籍した後、アラフォー女性向けファッション誌『Marisol』に異動。その後『UOMO』に入りました。その頃の『UOMO』は、ちょうど日高(麻子氏)が編集長になり、それまでの“品のいいイタリアオヤジ”路線をガラッと変え、『MEN’S NON-NO』を読んで育ったアラフォー男性向け——今の原型になるリニューアルをした直後でした。その新生『UOMO』に8年在籍した後、コロナ禍に入った2020年に『MEN’S NON-NO』へ異動になり、2025年6月に『UOMO』のプリント版編集長として戻ってきました。

ペルソナが通用しない時代に

—改めて、『UOMO』のコンセプトや読者像について教えてください。

読者層はファッションが好きで感度の高い40代の男性です。ファッションはもちろん、デザインも好きで、プロダクト全般に関心があり、インテリア、車、食器など、センスのいいものを選べる審美眼を持っている。そんな読者に向けてファッションやライフスタイル全般の情報を届けています。

—『UOMO』、『MEN’S NON-NO』合わせて13年以上、男性ファッション誌に在籍されていますが、読者たちに変化は感じますか。

 摂取している情報の量が増えたからかもしれませんが、読者の興味の幅が本当に広がったと感じます。あとは“ペルソナ”という言葉はもうこれからはなくなっていくのではないかとも思っています。『MEN’S NON-NO』にいたとき、雑誌を全く読んでこなかった10代や20歳くらいの読者と話したのですが、彼らは「自分は何系」とか「ジャンル」という概念がなくて、もはやその“くくり”自体が死語になりつつある。ハイブランドと古着を着ていても“混ぜている”という感覚はなく、ごく自然なことですべてがクロスオーバーしている。それが当たり前になりつつある時代のなかで、まだかろうじてセグメントが生きているのが今の『UOMO』読者かもしれません。

—稲葉編集長が考える“『UOMO』らしさ”とは。

“大人のミーハー感”ですかね。新しいものをどんどん取り入れることは一見、信念がないとか、スタイルがないとか思われがちです。でもトレンドに流されるのと、トレンドを捉えるのは違います。時代の流れを恐れずに取り上げていくのが『UOMO』だと思っていますし、それが集英社のファッション誌の役割だと感じています。また、雑誌の本質的な鮮度は1ヶ月だと思っています。どんどん新しいものを取り入れて、少しでも読者の食指が動いたら手に取ってもらって、1ヶ月後には忘れてもらって構わない。そんな軽やかさとか、新しいものを柔軟に受け入れる姿勢は忘れないでいたいですね。制作スタッフからも「インディーズっぽいメディアが増える中で『UOMO』には王道のメンズファッション誌でいてほしい」と言われることも多いです。

作りたいものと、作るべきもの

—『UOMO』の読者と稲葉さんはまさに同世代ですね。何か意識していることはありますか?

そうですね、自分が『UOMO』のセンスの代表にならなければならないという怖さはありますが、『UOMO』イコール自分自身ではないとも思っています。集英社という出版社の中で、『UOMO』という雑誌に、何が求められているのか、何を作るべきなのかを常に考えています。自分の中では、作りたいものと作るべきものは全く別ものなんです。

—「作るべきもの」を意識するようになったのは、いつ頃からですか。

『MEN’S NON-NO』で副編集長になった頃からですかね。それまでは1プレイヤーとして好きなものを作ってきたのですが、編集長と雑誌の方向性について議論したり、部数や広告の数字を見せられるようになると、「好きなものを作っているだけじゃダメなんだな」と。組織の中で、この雑誌がどうあるべきかを考え出すと、徐々に「自分が編集長になったらどうすべきか」という目線に変わっていきました。

—そして実際に編集長になられて約1年が経ちました。

はい、不思議な感覚です(笑)。現場にいた頃は、自分が作ったページに対して読者の反応がダイレクトに返ってくる手応えがありました。今では自分の手を動かす機会はほぼなくなり、決断と判断の連続で毎日があっという間に過ぎていく。それに関しては、正直まだ慣れない部分もあります。

ただ、1プレイヤーだった頃には理解できなかった歴代の編集長の発言や行動をよく思い出します。ああ、あれはすべて狙いと意味があったんだな、と(笑)。親にならないと親の気持ちがわからないのと一緒ですね。

紙があるから、デジタルが活きる

—紙とデジタルの棲み分けについてお聞かせください。

WEBは数字の即効性、紙は世界観やブランディングの“箱”として機能しています。誌面のタイアップでもデジタル連動を求められるのがほとんどです。一方で、紙があるからこそブランドさんも安心してクリエイティブを任せてもらえます。また、出演いただくタレントさんにとっても、ファッション誌としての紙の存在が出演の大きな動機になっているのではないでしょうか。紙とデジタル、どちらかではなく、紙があるからデジタルが活きるという構造になっています。入社した頃から「紙の時代は終わりだ」と言われ続けてきましたが、逆に紙の価値が上がってきているように感じることもあります。写真集なども紙で出せることが一つのステータスになっていると聞きますし。淘汰されていくはずのものが、少ないからこそ価値が上がっている。それって、不思議な逆転現象ですよね。

“40歳男子”の今と、これからのUOMO

—今後やっていきたいことを教えてください。

今まで少しふわっとしていた『UOMO』の読者層に、もう少しリアルな“縛り”を入れたいと思っています。40歳は仕事では課長や管理職になり始めるタイミングで、プライベートでは家族がいて、子どももいて、さまざまな制約の中で暮らしています。そういう要素をポジティブに捉え、その中でもおしゃれやファッションを楽しみ、ライフスタイルを輝かせることができる。そんな提案をしたいと思っています。例えば直近の時計特集では「いつか誰かに引き継ぐ」という言葉を使っています。将来の息子やパートナーなど、自分だけでなく、リアルな生活の延長線上にいる誰かと一緒にファッションを楽しむ。そんな感覚を意識していきたいです。

半期に一度開催されている読者参加型の体験イベント、試着フェス©︎も好調だと伺いました。

はい、毎回100名を超える読者の方々にご参加いただき、最新のファッション・美容アイテムを試してもらい、本音コメントと採点でランキングしていく人気企画です。その中で最も多くいただく声が「すぐ買いたい」なんです。今後は試着するだけでなく、その場で買える「トライ&バイ」の仕組みも作りたいと思っています。また、ファッション、美容、時計以外にも、例えば飲食など、体験イベントならではのコンテンツを増やし、ブラッシュアップしていきたいですね。また、日本中を巡る「出張試着フェス」もやってみたい。100名ではなくても、10名〜20名などの小規模でもいいので、「あなたの街にも来ますよ」と展開していけるといいですよね。そして何よりもありがたく、そして『UOMO』の最大の強みだなと感じているのが、熱心な読者の存在です。皆さん本当に細かく誌面を読んでいただいているなと感じますし、センスも素晴らしく、とにかく生活感度が高い。このコミュニティを全国規模でコアに広げていけるといいなと思っています。

稲葉 翔さん 1981年生まれ。2004年集英社入社。『non・no』『Marisol』を経て、2012年より『UOMO』編集部に所属。2020年に『MEN’S NON-NO』へ異動し副編集長を務めた後、2025年6月より現職。大のサウナ好きで、『UOMO』で過去に自身がマンガのキャラクターとして登場するサウナ連載を持っていたことも。まだ現場の編集者だったころ、仕事でフィンランドへ出張に行き、本場のスモークサウナを体験できたのがいい思い出。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Yuko Sano