FASHION MEDIA CHRONICLE #05 ウェルネス情報を楽しく、賢く、スピーディーに Women‘s Health編集長 嶋内瑠璃子さん
加速するデジタルシフト、多様化する価値観やライフスタイル。目まぐるしく変化する現代社会において、メディアの在り方も日々進化しています。変わり続けることと、変わらないこと。ファッション情報を届けるメディアの「今」と「これから」に迫ります。今回は世界50ヵ国以上で展開されているライフスタイルメディア『Women’s Health(ウィメンズヘルス)』日本版の新編集長に就任した嶋内瑠璃子さんにお話を伺いました。
雑誌の経験値をWEBで生かす新たな挑戦
―嶋内編集長のこれまでの経歴をお聞かせください。
小さい頃からファッション誌など雑誌を読むのが好きで、大学を卒業後、新卒で出版社に入社しました。3年間、週刊誌を担当したあと、ファッション誌の編集部に異動になり、それから退職するまでの12年間、編集者として企画を立て、表紙なども担当し、タイアップやコラボ商品企画などにも関わってきました。
―ファッション誌で活躍されてきた嶋内さんが『Women’s Health』を選ばれた理由とは?
同じ会社、同じ編集部でキャリアを積み重ねるなかで、何か新しいことに挑戦したいという意欲も芽生えていました。そのひとつが“デジタル”。前職では雑誌のウェブ版にも関わっていたので、デジタルの潮流も実感していただけに、デジタルの知識をもっと増やしたいと思っていました。そしてもうひとつがファッションに対する“新たな価値観”。かつては、トレンドを押さえたファッションアイテムをたくさん持っている女性がおしゃれでカッコいいという風潮があるように思いましたが、自分自身、スポーツやメンタルヘルスなど、ウェルネス分野への関心が高まっていたこともあり、ファッションを内面からもアプローチしてみたいと感じていました。そんなときに『Women’s Health』でスタッフを募集していると知り、応募を決めました。
―WEB媒体で、しかも編集長というポジション。大きな一歩ですね。
そうですね。でも弊社は出版社のなかでもいち早くデジタルメディア事業に着手したパブリッシャーでもあり、社内のデジタルに関するノウハウは豊富。安心して頼れるスタッフがいるのがとてもありがたく、心強いです。私が「こういう読者ターゲットに向けて、こんなブランディングをしたい」という希望をメンバーに共有すると、デジタルチームがそれを実現するためのデジタル戦略をいろいろ提案してくれます。自分が雑誌で培った経験値と、会社のデジタルノウハウが組み合わさっていくことが新鮮であり、楽しくもあります。
ユーザーと同じ目線で提案するのがヒットの鍵
―あらためて『Women’s Health』という媒体について教えてください。
『Women’s Health』は2005年に『Men’s Health』の姉妹誌としてアメリカで誕生したフィットネスを中心としたライフスタイルメディアです。今では、世界54カ国以上で愛されるメディアに成長し、日本では7年前にデジタルメディアとしてローンチ。「心と体、地球の健康のために必要な情報や機会を提供し、ウェルネスを通して女性を幸せにする」というミッションを掲げています。さらに3年前には、Eコマース『Women’s Health SHOP』も加わり、ウェルネス市場の拡大とともに成長を続けています。
―サイトを拝見するとファッション、フィットネス、フードなど幅広い記事がかなりの更新頻度でアップされています。
記事は1日に2~5本、月に90~100本配信しています。本国の翻訳記事と日本のオリジナル記事の割合は半々。翻訳記事は世界で急速な広がりを見せているボディポジティブについてなど、世界共通のテーマ性があるものを主にピックアップしています。日本のオリジナル記事では流行りのダイエット法やお金のかからない健康法などをエディターが実際に試してみる体験レポートなどが人気です。エディターがフードやエクササイズなど、自身の得意なものにチャレンジするので、よりリアリティが増して、読者の共感を得られています。
―Women’s Health SHOPでとくに人気を集めているヒット商品やロングセラー商品にはどんなものがあるのでしょうか。
2022年1月末に開催をスタートした「みんなでファスティング祭り」は、延べ参加者数が1500名以上になるほどの人気です。ファスティング専用ドリンクやファスティング中のサポートアイテムがセットで届き、さらに断食指導士が、準備食から回復食までの期間、LINEでみっちりサポートしてくれるサービス付き。匿名のチャット機能もあるので、「同じ志を持った仲間と一緒にグループファスティングできるので心強い!」と好評を得ています。もちろん、私もやりました。断食は“ツライ!”というイメージがあったのですが、楽しくできて、肌のコンディションも良くなり、お腹周りもサイズダウン。リピーターが多いのにも納得できました。他にも、ツェルマットのTバックショーツは、エディターがレギンスに合わせるショーツとして紹介したことをきっかけに、1週間で100枚売れ、話題になりました。ファスティング企画もショーツも、オンラインショップに載せるだけではなく、商品をより実用的に、より効果的に、かつ楽しく生活に取り入れる方法を編集部で考え、ユーザーの皆さんと共有することでヒットにつながった、まさに弊社らしい取り組みだなと実感しています。
ウェルネスの入り口となるメディアを目指して
―編集長として、今後の展望についてお聞かせください。
今、まさに『Women’s Health』のリブランディングを図っている最中です。これまでの読者層は、運動が生活の真ん中にあるような、ウェルネス志向がかなり高い方たちがメインでした。これまでの取り組みが奏功し、それらの層に対しての認知は高まってきたという実感があることから、今後は、“隠れスポーティ”層を取り込んでいきたいと考えています。具体的には20代から40代の女性で、年齢を重ねるごとに体力の衰えや体形の変化を感じ始め、「このままではいけない」と思っているけれど、「忙しくて運動に割く時間がない」もしくは「そもそも運動が苦手」で、一歩を踏み出せないでいる。そうした方たちに、メンタルヘルスやフードなど、運動だけではない多角的なウェルネス情報をお届けしていきたいと思っています。
―何か具体的なアプローチ方法や施策はございますか。
まずはビジュアル面で、運動を想起させるファッションから、もう少し、ナチュラルでヘルシーなライフスタイルを感じさせるものを増やしていこうと思っています。また、読者を代表するコミュニティであるFit Girlsも、現在はヨガやジムのインストラクターなど、フィットネスが生活の中心にある方が多いのですが、今後は会社員やママさんなどにも幅を広げ、環境問題など社会への関心度や問題意識が高い方も内包していきたいと思っています。
―ずばり、今後『Women’s Health』をどんなメディアにしていきたいですか。
今の女性たちは、“新しくていいもの”に対して貪欲で積極的、それでいて効率性やコスパという点も重視しています。さらに、自分が買う・買わない、やる・やらないという判断がとてもスピーディー。そうした方々に対し、簡単で効率的に、賢くセンスよく、そして楽しくウェルネスを生活に取り入れる手段を提供するのが私たちの使命だと思っています。私個人の思いとしては、“ウェルネスの入り口”となりうるメディアにしていきたいです。
―最後に、広告代理店に期待することがあれば、ぜひ教えてください。
私がそうであるように、雑誌が好きで、出版社を選び、その道で生きてきた人間として、“エディトされた情報”に対する価値を高めたいという想いがあります。情報を精査し、編集して、読者に届ける。その過程として、あまたある情報を細かく吟味したり、たくさんのターゲット層にインタビューしたり、そうした地道な努力の上にコンテンツが生み出されています。そうした表には出ない、でも大切な部分こそ編集の醍醐味であり、エディトリアルの価値だと信じています。その使いどころを、広告代理店の皆さんも一緒に探っていただければありがたいです。ぜひ、よろしくお願いいたします。
嶋内瑠璃子さん 京都市出身。大学在学中に1年間パリに留学。新卒で株式会社光文社に入社し、2012年より『VERY』にてファッションを中心にビューティー、カルチャー特集を担当。2020年より『VERY web』兼務、2021年にデスク就任。2024年7月にハースト・デジタル・ジャパン入社、『Women‘s Health』編集長に就任。一女の母。
Photo: Rio Kotera
Text: Tomoko Hori
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