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FASHION MEDIA CHRONICLE #07 地球上のすべてのカルチャーを包括する BRUTUS編集長 田島朗さん

加速するデジタルシフト、多様化する価値観やライフスタイル。目まぐるしく変化する現代社会において、メディアの在り方も日々進化しています。変わり続けることと、変わらないこと。ファッション情報を届けるメディアの「今」と「これから」に迫ります。今回は創刊45年を迎えるポップカルチャーの総合誌『BRUTUS(ブルータス)』の編集長を務められている田島朗さんにお話を伺いました。

ミッションは雑誌を誌面だけで終わらせないこと

—田島編集長のこれまでの経歴を教えてください。

1997年にマガジンハウスに入社し、約1年半は宣伝部で『BRUTUS』の宣伝担当をしていました。その後1998年秋に『BRUTUS』編集部配属になり、約18年間所属しました。2016年には『Hanako』編集長に就任し、雑誌だけにとどまらないメディア展開を行う大リニューアルを手がけました。そして2022年4月1日発売号から『BRUTUS』に編集長として戻ってきました。

—メディア業界を目指したきっかけは?

学生時代から旅が好きで、バックパッカーをしていたんです。雑誌も好きだったのですが、とにかく旅に行けそうな仕事を…と思って行き着いたのがメディア業界だった。もしマガジンハウスに入っていなかったらそのまま旅人になっていたかもしれないです(笑)。

—現在の仕事内容を教えてください。

『BRUTUS』編集長として、プリントメディアはもちろんのこと、それ以外にもいかに雑誌ブランドを雑誌以外の領域に発展させていくかを考えています。それはまさに『Hanako』の立て直しの際に取り組んだことでもあります。具体的にはデジタル・コミュニケーションを筆頭に商品開発やクリエイティブ、海外事業や読者コミュニティの拡大など。それをより大きな規模とブランド力を持つ『BRUTUS』でも展開していくことが今の僕のミッションですね。

築き上げてきた柔軟な発想力とブレない軸

—『BRUTUS』は創刊当時からロゴも変わっていないのですね。

はい、ロゴそのものだけでなく、その位置や大きさ、それに判型や1日・15日発売という発行形態も基本的に創刊当時から変わっていません。もちろん時代に合わせて取り上げるテーマやページデザインなどの微修正はしつつも、大きな方向転換をせず45年間同じフレームで作り続けている雑誌は他に存在しないと思います。インターネットがなかった時代の雑誌メディアは、とにかく情報を詰め込んでいましたが、現代においては “予期せずうっかり何かに出会える場”になることが雑誌の役割だと思っています。そこで気になったトピックはさらにスマホで調べてもらえばいい。そのため、以前よりも写真やメッセージの立て方、見せ方などを工夫するようになりましたね。

—どんなジャンルでも特集が組めるイメージがありますが。

よく「何の雑誌なんですか?」と聞かれます(笑)。あえて言うならば、ポップカルチャー誌。世の中にある様々なカルチャーをすべて扱っている、といったところでしょうか。人は皆いろんな側面を持っていますよね。たとえば服好きな人が同時に映画も好きだったり、グルメも好きだったり。そっちの方が人として自然ですから。だから『BRUTUS』は極めて“人間そのもの”だと思っているんです。

—『BRUTUS』には他の雑誌にないブランド力があると感じます。

これからの時代、雑誌はある種の“癖”がないとやっていけないと思っています。そのためにもできる限りひとつの特集を一人か二人で担当するようにしています。大人数で多数決を取りながら作ると、どうしても面白い部分が削がれてしまう。正解がないからこそ最終的には誰か一人の主張が全面に出てくると面白くなると思っています。なので、当たる時は当たりますが、外れるときは外れる(笑)。でも、たとえ外れたとしても、『BRUTUS』の振り幅を広げたことにもなるので結果OK。それは月2回、年間23冊も作っているからこそできること。この時代に、よくこんな作り方するなあと自分たちでも思うんですが…(笑)、だからこそ冒険もできるし、『BRUTUS』らしさを維持できているのだと思います。

デジタル時代にこそ見えてきたコアな雑誌ファン

—デジタルに関しては割と遅めの参入だったと伺いました。

正直、マガジンハウスはデジタルにおいては後発組。それは、おかげさまで従来の雑誌ビジネスだけでもやっていけてたからなんです。僕は『Hanako』に異動する前、『BRUTUS』のデジタル担当もやっていたのですが、編集長に「まだデジタル化しなくていいですよ」と言い続けてました(笑)。中途半端にやるぐらいなら本当に必要になった時に本腰を入れてやればいい、と。それもあって『BRUTUS』がデジタルに着手したのは2018年と割と最近なんです。

—世の中は圧倒的にデジタルシフトしているように思いますが。

実は雑誌『BRUTUS』の部数はこの45年間、それほど落ちてないんです。年に数号、爆発的に売れる号はありますが、ある一定の水準をずっとキープしています。よって、当然プリントメディアを止める必要性もないですし、さらに言えば、今の時代にわざわざお金を払って雑誌を買ってくれる方こそ、『BRUTUS』を信じてくれていて、さらに世の中のトレンドや情報に積極的かつ能動的な人たち。そんな良質な読者がいることをクライアントさんにもご理解いただけている気がします。世の中の流れと逆行しているようですが、実はずっと変わっていないとも言える。すごく面白いことだと思います。

昨今、情報を得るならWEBのほうが圧倒的に早い。一方でWEBの情報は、情報だけが切り出されて提供されているので、前後の文脈がなかったり、それが正しいかどうかや、誰が言っているか分からないという面もあると思います。僕らは取材した情報を『BRUTUS』として責任を持って提供しているので、そこに対する読者の信頼や価値は今まで以上に上がっているのだと思います。ウェブメディアであっても、その信頼や評判が、次のコンテンツ開発やプロデュースにつながっています。『BRUTUS』のビジネスは、いわばさらなる成長期にあると思っています。

—編集部では誌面とWEBは分けて作っているのでしょうか。

『BRUTUS』編集部の最大の特徴は、編集部員がすべてのコンテンツのディレクターとして介在するということですね。つまりWEBやその他の事業を外部に丸投げすることは絶対にしない。『BRUTUS』らしさ、というのは抽象的なものだけに、コントロールをしっかりしないとブランドの強度が落ちてしまいます。だから編集者は本誌を作りながら動画を監修したり、担当号の告知施策まで考えたりしています。やることが増え、その分かなり忙しくなったので、編集部員には申し訳ないな、と(笑)。でも若い世代は思った以上に柔軟に、かつ面白がってやってくれているので頼もしいですね。

とにかくプリントメディアは、よりプロダクトとしての完成度と規模感を追求し、一方でデジタルメディアはよりブランドの認知を高め、新しいファンを獲得するために取り組むようにしています。『BRUTUS ORIGINAL MOVIE』などはその好例です。毎回、特集と連動してムービーを作っていますが、いわゆる“特集の宣伝動画”には絶対しない。同じ特集テーマを軸に、動画だったらこうするよね、という視点で作っています。おかげで『BRUTUS』の編集者は、紙でもウェブでも動画でもイベントでもプロダクトでも、なんでも編集できるチームに育っていると思います。

この春に立ち上がる新しいプロジェクト

—今後『BRUTUS』でやりたいことは?

実は、4月に新しいプロジェクトを立ち上げる予定です。まだはっきりとは言えませんが、メディアでありながらサービスでもある、と言いますか。編集というスキルと雑誌ブランドを活用して、いろいろな可能性の幅を広げることができればと思っています。

もうひとつは海外戦略ですね。すでに『BRUTUS』をはじめ『POPEYE』や『Casa BRUTUS』など、マガジンハウスの雑誌は海外の書店にも置かれています。コンテンツ自体はドメスティックな内容なのに、海外でも需要があるんです。日本に来る観光客も増え、海外からの注目度はますます上がっています。今後、海外市場にどう向き合っていくかが会社的にも大きなテーマになる一方、雑誌をただ“輸出”するだけでは限界がある。ここでもまた面白いプロジェクトをいくつか企画しているので、実現に向けて推進していければと思っています。

—最後に、広告代理店に求めることを教えてください。

雑誌は誌面だけにとどまらないものになっています。だからこそ、その可能性を一緒に開発していける関係を築けるといいなと思っています。ファッションはまさにその好例です。これまで私たちは多くのファッションクライアントに支えられてきましたが、雑誌×ファッションの見せ方はまだまだのびしろがあると感じています。それはデジタル上での新たなテクノロジーを使ったものかもしれないし、リアルイベントかもしれません。

創刊から45年、ありとあらゆるカルチャーを取り上げてきた『BRUTUS』のネットワークは、他のどの雑誌にも引けを取らないものだと自負しています。ファッション、アート、音楽、エンターテインメント、地球上にあるカルチャーでつながってないものはないんじゃないかな。あと、比較的、広告代理店には『BRUTUS』のファンでいてくれている方も多い気がします。私たちの知らない新しい技術やサービスを『BRUTUS』ぽくしたらどうなるか?などなど。ぜひ『BRUTUS』好きの広告マンと一緒に、何か面白いことができると嬉しいので、いつでもお気軽に東銀座へお越しください(笑)。

田島朗さん 1997年マガジンハウス入社。宣伝部から『BRUTUS』編集部に異動し約18年間在籍。2016年より『Hanako』 の編集長としてデジタルなど幅広い事業を展開。2021年12月より現職。若い頃にさまざまな刺激を与えてくれた一人旅をそろそろ再開しようかと密かに画策中。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Asako Fujita