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FASHION MEDIA CHRONICLE #14 濃度と精度を強みに、モードとカルチャーをつなぐ 『SPUR』プリント版編集長 池田 誠さん

価値観が細分化し、正解のない時代。メディアに求められているのは、情報の速さや量だけでなく、「どんな視点で世界を切り取るのか」という意思なのかもしれません。変わり続ける環境のなかで、何を更新し、何を守るのか。FASHION MEDIA CHRONICLEでは、ファッションメディアを率いる編集長たちの言葉を通して、時代と向き合い続けるメディアの「現在地」を探ります。今回は、1989年の創刊以来、日本発のモードマガジンとして独自の存在感を放ち続ける『SPUR』のプリント版編集長、池田誠さんにお話を伺いました。

何をどう見せるか、ストーリーや仕掛けが必要な時代

—これまでの経歴を教えてください。

大学卒業後、集英社に入社して『MORE』に4年、『SPUR』に9年、『UOMO』に12年在籍しました。2017年から『UOMO』副編集長、2021年から『UOMO』プリント版編集長となり、2025年6月に『SPUR』のプリント版編集長として12年ぶりに女性誌に戻ってきました。

—ずっとファッション一筋ですね。12年ぶりに『SPUR』に戻られて感じた変化を教えてください。

まず、自由で可愛いラグジュアリーを、日本から発信するモードマガジン、という『SPUR』のコンセプトは変わっていません。しかし、ファッション全体を取り巻く環境はここ数年で大きく変わりました。特に、服の価格が年々高騰していることは誌面づくりにおいて大きく影響しています。以前なら頑張れば手が届いたものが、昨今はどんどん現実離れした存在になってしまっている。今まで以上に「何を」「どう見せるか」の仕掛けづくりが重要になっていると感じます。

—読者層の変化や買い物に対する意識の変化などは感じますか?

『SPUR』の読者層は幅広く、下は10代のファッション好きから上は30年以上読み続けて下さっている方もいらっしゃるので、ドラスティックな読者層の変化は感じていません。しかし、モノ選びはよりシビアになっています。ただ“カワイイ”、“欲しい!”だけではない理由が必要で、それが先ほど言った仕掛けにも通じる部分。“それだけのお金を出す価値”をきちんと示す必要があります。そして「資産価値」という意味で、宝飾品や時計への興味が以前よりも高まっていると感じているので、僕が就任してからは今まで以上に時計やジュエリーのページを充実させることを心がけています。

—12年ぶりの『SPUR』で挑戦したいことなどはありますか?

今年の3月に出版した『SPURソウルシティガイド』は、『SPUR』としては初の試みであるムック本です。ここ数年、韓国特集はすごく力を入れてやってきたので、その中から選りすぐりのページを再編集して作りました。表紙は『TOMORROW X TOGETHER』のSOOBINとBEOMGYU。同日発売となった『SPUR』5月号の増刊号も2人がカバーで、ムックとダブル表紙を飾ってくれました。こういった『SPUR』ブランドの拡張や仕掛けは今後も積極的にやっていきたいです。あとは先日、『三省堂書店』神田神保町本店がリニューアルオープンしましたが、今、神保町が海外の方から注目されていて、人がすごく集まっています。本の街、神保町を盛り上げるため、神保町に根付いた出版社だからこそできることをやりたいな、とアイデアを温めているところです。

日本のスタッフが日本の読者のために作る、濃密さと精度

今後、『SPUR』をどんな雑誌にしていきたいですか。

僕個人の考えとして、雑誌に保存性は求めていません。月刊誌なので、1ヶ月話題になればいい、瞬間最大風速的に面白ければそれでいいと思っています。お高く止まるのではなく、いい意味で「雑味」のあるノリのいい雑誌にしたくて。『SPUR』はジャンル的にはラグジュアリーなものを扱っていますが、コンサバにならないようポップで軽やかな雑誌にしたいですね。

海外に向けての発信、出版についてはどうお考えですか。

『SPUR』はファッションに限らず、街や食、カルチャーなど幅広い情報を扱っているので、日本に観光に来る、または日本に興味のある方に向けて英語版を作ってみたいですね。特別版なのか、ムックなのか、形態は考える必要がありますが、何かできることはあると思っています。

海外のラグジュアリーファッション誌もどんどん変化しています。その中で『SPUR』に何が求められていると思いますか?

日本のスタッフが日本の読者のために作っている情報の濃密さと精度だと思います。ファッションに限らず、そこには現場をやっていた頃から自信がありますし、今後も変わらないと思います。僕自身は、あまり“ファッションエディター”とは名乗りたくないんです。どちらかと言えば、ファッションが好きである以上に、雑誌を作ることが好きなんです。雑誌ならではの面白さ、を常に追求していることも、強みのひとつだと思います。

雑誌を作る楽しさ、モチベーションはどんな部分にありますか。

雑誌って究極の暇つぶしですよね。いつ、どこから読みはじめてもいいし、途中で止めてもいい。自由度の高いメディアだからこそ、作る側も同じように自由でありたい。ユーモアと遊び心を忘れずに、読者に対して「こういうものがあるんですけど興味ありませんか?」というきっかけを作っていく感覚ですね。実際に『SPUR』を読んで「これをやってみた」「ここに行ってきた」という話を聞くのが一番の喜びなので。

カルチャーとモードをつなぐ役割を担う

最近反響があった企画を教えてください。

2026年1月号の「金原ひとみ ピアスと綴る幸福論」では、作家の金原ひとみさんにモデルとしてご登場いただきました。デビュー作が『蛇にピアス』(集英社)ということもあり、ピアスに関しては並々ならぬこだわりがある。金原さんの語りとジュエリーの美しいビジュアルを同時進行で見せているのですが、彼女の言葉に触れることで耳飾りがより一層魅力的に見えるような構成にしています。金原さんの語りの説得力とこだわりが伝わる良い企画だったと思います。もうひとつあげるなら、昨年12月号の「小田切ヒロがメイクアップ HANA 7つの個性、7つの唇」ですね。もともと『SPUR』で連載を持っているメイクアップアーティストの小田切ヒロさんに、HANAのメンバーそれぞれの個性を引き出すメイクをしてもらうという企画です。小田切さんが一人ひとりの内面に向き合いながらリップを1本1本選んでいく、という構成で、いわゆるアーティストインタビューでも、ビューティーページでもなく、まさに『SPUR』が得意とするカルチャーとモードをつないだとても良い事例で、大きな反響をいただきました。

最後に、池田さんが広告会社に期待することを教えてください。

お願いしたいのは「新規開拓」に尽きます。僕らのコネクションではリーチできない方々はたくさんいらっしゃいますし、逆に興味を持ってくださっているけれどアクセスの仕方がわからない方々もいるはず。また、『SPUR』を知らない方々もまだまだいらっしゃると思うので、ぜひ『SPUR』の存在をいろいろな人に伝えて拡散してほしいです。そのためにも、ぜひ気兼ねなく、“ちょっといいかもしれない”とか “脈あるかも”みたいな相談でも、気軽に声をかけてほしいです。誌面作りと同様、クライアントの皆さんにも楽しんでもらえるようなものを一緒に作っていきたいですね。

池田 誠(せい)さん 大学卒業後、2000年に集英社に入社し『MORE』、『SPUR』、『UOMO』に在籍。2017年に『UOMO』副編集長、2021年からは『UOMO』プリント版編集長に。2025年6月に『SPUR』に戻り、プリント版編集長に就任。鉄道旅が趣味で、国内全ての鉄道路線を乗りつぶすのがライフワーク。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Yukiko Takeda