銀座英國屋×BRING/オーダーメイド×リサイクルで理想の循環型社会を目指す
顧客から寄せられる“役目を終えた服”。その大切な一着を託す場所として、オーダースーツ専門店の銀座英國屋が選んだのが衣類回収プラットフォーム「BRING」。顧客にとっても、作り手にとっても想いが込められた服は、BRINGによって、どのような“余生”を過ごすのか。服を生み出す銀座英國屋の小林英毅社長と服に新たな命を宿すBRING BUSINESSゼネラルマネージャーの小柴雄祐さんに、循環型社会に向けた取り組みと今後の展望について語っていただきました。
ウールのスーツが自動車の内装素材に
―銀座英國屋がBRINGのサービスを取り入れた背景を教えてください。
(銀座英國屋:小林氏) お客さまから「大切にしてきたスーツを捨てるのは忍びない。ゴミとして捨てるには抵抗や寂しさがある」というお声を度々いただいていました。京都店にいた小谷(現顧問)が、「洋服を供養してもらえないか」と京都の神社に相談した事もありましたが、大気汚染の観点などから実現には至らず。他に良い方法はないかと探しているなかでJEPLAN(旧日本環境設計)が、小売店の店頭で衣料品を回収するリサイクル事業を行なっていると知りました。2013年頃のことで、たしか当時は「FUKU-FUKUプロジェクト」という名前でしたよね。
(BRING:小柴氏) そうですね。銀座英國屋さんとは10年以上のおつきあいになります。弊社は2007年に創業したベンチャー企業で、2009年に経済産業省が所管する中小企業基盤整備機構の繊維製品のリサイクル調査事業の採択を受けたことをきっかけに、2010年から衣類の回収事業を開始しました。事業を始めた当時は、良品計画さんやイオンさんを筆頭に、量販店や大手小売業者の参画が多い中で、オーダーメイド専門という銀座英國屋さんの存在は非常に珍しかったと思います。
―銀座英國屋からBRINGへは現在、何着くらいの服が提供されているのでしょうか。
(銀座英國屋:小林氏) この半年間では100着ほどになります。当初、使わなくなった綿製品をリサイクルして燃料になるバイオエタノールを生産するといったお話しだったように記憶しています。
(BRING:小柴氏) 事業をはじめた当初は、自社技術で綿からバイオエタノールの製造に取り組んでいました。その技術を活かして、車を動かしたり、飛行機を飛ばしたりして、リサイクルの面白さを視覚的に伝えようという試みも過去には実施しました。現在その事業は行なっておらず、素材に応じる形でリサイクルしています。大きな特徴としては、当社独自のPETケミカルリサイクル技術を活用して、ポリエステル繊維100%の衣類を再生ポリエステル樹脂に再生し、樹脂販売や当社オリジナルのアパレル製品などを製造販売することに取り組んでいます。
(銀座英國屋:小林氏) 弊社が提供しているようなウール素材の洋服は別の形になりましたよね?
(BRING:小柴氏) そうです。ウールですと、“反毛(はんもう)”と呼ばれる繊維のマテリアルリサイクルに活用され、自動車の内装材として生まれ変わるなどしています。ご自身が大切にしていたスーツが別の形になって世の中に存在しているとなると、なんだかワクワクしますよね。BRINGでは消費者行動のなかに衣類を循環させることが自然と組み込まれることを目的としているので、それが伝わるととても嬉しいです。
衣類回収が接客の付加価値に
―実際にBRINGを利用してみて、お客様からの反響はいかがでしょうか。
(銀座英國屋:小林氏) そのあたりは接客に当たっているスタイリストのほうが詳しいと思うので、銀座三丁目店に勤務するベテランの小山に話しを聞いてみましょう。
(銀座英國屋:小山氏) お客さまと接する中で、「古くなったり、サイズが変わったりして着られなくなった服は、どうしたらいいのかなぁ?」と聞かれることはよくあります。当店のスーツは高価格ですし、そもそも自分のためだけに誂えられたオンリーワンの服。そうした大切な服だからこそ、捨てるのは忍びなく、かといって人に譲るわけにもいかず処分に困っている方がとても多いんですよね。そこで、BRINGさんの回収サービスをご案内すると、「英國屋さんがおすすめするなら安心だ!」といってご利用されます。
(銀座英國屋:小林氏) 私が印象的だったのは、ご遺族の方がお持ちになったときですね。故人が大切にしていて、ご家族にとっても思い出のある服はそう簡単に処分できるものではありません。でも、「スーツを誂えた英國屋さんを通して託せるのであればお願いします」とお持ちになられます。皆さん、「捨てられないと残していたけれど、社会貢献になるなら喜んでお役に立ちたい!」と、とても喜ばれていらっしゃいます。
(BRING:小柴氏) 回収の事業は長らくやっていますが、こうしてお客さまがどんな思いで託されているかというところまでは、聞く機会はそれほどありませんでした。ですから、今回、こうしてお二人のお話を聞いて、非常に身の引き締まる思いがします。
―英國屋のお客さまにとって衣類回収のサービスが想像以上に役立っているのですね。
(銀座英國屋:小山氏) 季節のお手紙の中に、BRINGのご案内を同封させていただくこともございます。 それをご覧になり、着古した洋服をお持ちになったタイミングで、新しいスーツをオーダーしてくださる方もいらっしゃいます。スーツを誂えるところから最後の処分のところまでこちらで承ることができるので、本当にいいシステムですよね。
(BRING:小柴氏) 英國屋さんから回収させていただいた洋服を見ると、びっくりするくらいにきれいで。とても大切に着られてきた服だというのが分かるだけに、捨てることに抵抗があるというのも納得です。そうしたなかでBRINGだったらということで託していただけるのはとても光栄なこと。一着一着大切に作られた服を新たなカタチで循環させることに我々の事業が役に立っていることがとてもありがたいです。
人的サステナブルも不可欠
―双方のサステナブルな活動が広まれば理想の循環型社会に近づけそうです。
(BRING:小柴氏) 今日の私の装いは自社で開発した再生ポリエステル繊維で仕立てたものです。不要となった洋服を回収し、リサイクルして新たな服へと生まれ変わらせることをより多くの方に体感してもらい、捨てずにリサイクルすることをスタンダード化させたいです。そういった意味では、良質な素材で、必要な分だけ洋服を作り、リペアサービスにも取り組み、さらにはフィッティングや縫製に長けた技術者を育てている銀座英國屋さんは、ファッション業界の理想を体現している企業ですよね。その凄みに触れたことで、弊社としてまだまだできることはあると、考えさせられました。
(銀座英國屋:小林氏) ファッション産業が生み出す大量のゴミが問題になっていますが、弊社の廃棄率はとても低く、0.1%以下です。そればかりか、皆さま1着の洋服を20年といった長期間にわたって愛用されています。私たちが理念に掲げているのは、信頼を得られる装いをお届けすること。人生の節目となる日や大切な商談の場にふさわしい装いにとお客さまが選んでくださる以上、それに応えるのがテーラーである私たちの使命だと思っています。その思いがサステナビリティに繋がっているのかもしれませんね。
―最後に、それぞれの今後の展望をお聞かせください。
(銀座英國屋:小林氏) 経営者として「人的なサステナブル」に寄せていける企業を目指したいです。ファッション業界は、特に店舗スタッフの負荷が高く、残業も多い割に、低賃金のため離職率が高い傾向にあります。幸い、弊社の2023年度実績の平均年収は525万円と、一般平均の103.3%、アパレル平均の130.9%となりました。平均勤続年数は23年と、全業種の上場企業の平均勤続年数13.6年と比較しても、働きやすい環境にはなってきたと思います。さらに今後は、評価制度や1対1MTGなどを導入し、成長の実感を軸とした、働きがいのある企業にしていきたいです。
(BRING:小柴氏) 小林社長や小山様のお話を聞いて、ここまで社員やお客さまのことを大事にされている企業がBRINGに参加してくださっていることのありがたさを、非常に強く感じました。だからこそ、トレーサビリティを高め、消費者の行動を促せるようなしくみと商品をしっかりと作り上げていきたいです。そのためには再生技術や品質の向上、商品のラインナップなど超えなければならないハードルは山ほどあります。だからこそ、銀座英國屋さんのように素晴らしいパートナーさんが関わってくれていることを励みに、私たちが目指す循環型社会が世の中のスタンダードになるようこれからも努力を重ねたいと思います。ぜひ、これからもよろしくお願いします。
(銀座英國屋:小林氏) こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社英國屋 代表取締役社長 小林英毅さん 1981年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、IT系企業に入社。システムコンサルティングや開発部門での業務を経験した後、2006年、株式会社英國屋に入社。2009年、28歳で高級オーダースーツブランド「銀座英國屋」の3代目として代表取締役社長に就任。
株式会社JEPLAN/BRING BUSINESS Department ゼネラルマネージャー 小柴雄祐さん 1982年生まれ。兵庫県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。ファッションアパレル関連部門で営業職を経験した後、2022年に39歳で循環型社会を目指すスタートアップ企業である株式会社JEPLANに入社。2024年よりBRING BUSINESSゼネラルマネージャーに就任。
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