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「伝える」だけでなく「実践する」。14誌すべてをグリーンエネルギーで印刷・製本するハースト婦人画報社のサステナビリティ戦略 株式会社ハースト婦人画報社 社長室 室長/サステナビリティ マネージャー 大竹紘子さん

Fashion × Sustainability をテーマに、ファッション業界で活躍するトップランナーの⽅々とファッションの未来や可能性、これからのビジネスのヒントを探る連載企画。今回は、世界40カ国で情報サービス・メディア事業を展開するハーストグループの日本法人、ハースト婦⼈画報社。欧州など環境先進地域にも拠点を持つハーストグループのネットワークを背景に、サステナビリティ推進を担う⼤⽵紘⼦さんに、社内での取り組みやクライアント向けソリューションについて伺いました。

生産現場での経験からサステナビリティの道へ

─大竹さんの経歴を教えてください。

もともとはファッション業界で生産MDとして洋服の⽣産に携わっていました。 出張で海外の⽣産現場を訪れる機会が多かったのですが、そのたびに、⾔葉にしきれない複雑な思いを抱いていました。原材料や完成した製品が⼭のように積まれている光景、そこで働く⽅々の暮らし。企業としては⼈権や環境への適切な配慮をしていますし、⼯場監査もしっかり⾏われている。それでも現場に⽴つたびに、「私は本当にいいことをしているのだろうか」という問いが消えませんでした。仕事⾃体はすごく好きだったのですが、このまま同じことを続けていいのだろうか、と当時よく同僚にも話していました。そんな中、家族の都合で海外に移住することになり、いったん仕事を離れることになりました。ちょうどそのタイミングで、良き相談相⼿だった元同僚がサステナビリティ部⾨に移り、「⽇本に戻ってきた際はサステナビリティ部門に来ないか」と声を掛けてもらっていました。そして、4年半の海外生活から帰ってきたタイミングで、サステナビリティの道を選びました。サステナビリティ部⾨(環境チーム)では、衣料品回収から循環技術に関する取り組み、脱炭素プロジェクトまで、幅広い業務に携わりました。規模の⼤きな企業だったこともあり、⽇々扱う最新情報の量の多さが刺激的であった反⾯、何か新しいことを実現しようとすると、どうしても時間がかかってしまいます。「⾃分の⽴場でもっと変えられることがあるはずだ」という思いが次第に強くなり、ハースト婦⼈画報社へ転職するご縁をいただきました。

─ハーストに入社されて、まず何から始められたのですか?

現在のポジションに私が就いたのは 2022年の夏ですが、専任のポジションができたのは 2018 年からで、私は2 代⽬にあたります。⼊社した時にはすでに ISO14001 という環境マネジメントシステムの運⽤が始まっていて、算定も少しずつスタートしていた段階でした。 ISO14001 ⾃体、私にとっても初めて経験するものでしたし、社内メンバーも本来業務と並⾏して関わっている状況だったため、まずは現状を整理し、自分自身がきちんと理解をした上で、ISO14001をより実効性のある仕組みとして活⽤することから着⼿しました。

欧州にも拠点を持つグローバルメディアグループ企業の一員として

─ハースト婦人画報社では、実際にどういった取り組みをされているのでしょうか?

プラスチック削減のため、オフィス内の⾃動販売機からペットボトル製品は撤去されています。お客様にお出しするお⽔も紙パックのものですし、社員にはマイボトルが⽀給され、オフィス内にシングルユースプラスチックカップを持ち込まない工夫をしています。今年(2026 年)4 ⽉には、「CASBEE 認証 ※1」のSランク(最高評価)を取得している⾚坂トラストタワーへ移転しました。※1 CASBEE 評価認証(建築物総合環境性能評価認証)…環境負荷の少ない資機材の使⽤ など、省エネルギー対策がされていることや、室内の快適性、⽣物多様性、景観への配慮などの環境品質も含めた建物の環境性能を総合的に評価し、格付けするシステム。

─自社のCO2排出量算定の取り組みにおいては、具体的にどのような事をされていますか?

2022年から、サプライチェーンを含めた⾃社の排出量(Scope1〜3 ※2)を⾒える化し、コーポレートフットプリントの算定を⾏っています。Scope1とScope2については、すでにカーボンニュートラルを達成していて、Scope3については、2023年3月号から、14誌すべてをグリーンエネルギーで印刷・製本するなどできる事から取り組んでいます。※2 Scope1〜3……温室効果ガス(GHG)の排出量を算定する際の国際的な分類基準。Scope1 は⾃社が燃料の燃焼などで直接排出する量、Scope2 は他社から供給された電⼒・熱の使⽤ に伴う間接排出量、Scope3 は原材料の調達や製品の製造・流通・廃棄など、サプライチェーン全体を通じて発⽣する排出量を指す。

─14誌すべてをグリーンエネルギーで印刷・製本するというのはインパクトがある取り組みですね。

正直に⾔えば、これは売上に直結する取り組みではありません。それでも続けているのは、業界やさまざまな企業が同じ思いで取り組んだときの社会へ与えるインパクトの大きさを信じているからです。雑誌の奥付には、その⼀冊の製造にかかるCO2排出量(カーボンフットプリント=CFP)を明記しています。発表したときには、多くのメディアから取材をいただきました。情報を発信し伝えるメディアとして、読者や⽣活者に対して、知ってもらう機会を作り、そこからのそれぞれの学びから、⾏動に移してもらうことを⽬指しています。ビジネスの⾯においても理由があります。当社は欧州にも拠点を持つグローバル企業なので、広告ビジネスにおいて環境先進国であるヨーロッパのハイブランドと関わる機会が多い。グローバル企業として肩を並べられるよう、環境問題や気候変動に率先して向き合いたい、という思いは以前から強くありました。

─欧州は環境問題や気候変動に対して日本より進んでいますが、その理由はどこにあるとお考えですか?

欧州では地理的な環境もあり、気候変動に伴う様々な社会課題が生活やビジネスに直結するリアリティとして捉えられてきた側面があります。制度設計や議論のスタートが早かった分、具体的な対策が進んでいるのは確かです。グローバルグループの知見に触れる中で、こうした意識の差や取り組みの具体性を実感する機会は多くあります。

ハースト婦人画報社が行う3つの柱

─社内やサプライチェーンも含めて変化を生み出した今、これから御社が取り組んでいくことを教えてください。

1905年の『婦人画報』創刊以来、私たちは様々な自社のメディアを通じて時代の変化に寄り添い、女性の社会進出をはじめとする多様なテーマを発信してきました。「感動を編集し時代を創る」というミッションのもと、ポジティブな情報発信を通じて社会に良い変化を生み出すことが、私たちのサステナビリティの軸にあります。そうした想いを具体化するため、現在は重要課題としてサステナビリティの 3 本柱―― 「Educating the Public」「Taking Action」「Offering B2B Solutions」を打ち出しています。

─1つめの「Educating the Public」から教えてください。

メディアとしての”ミッション”ですね。私たちメディアは、発信する情報を通じて、読者や⽣活者の方々が意識を変え、⾏動に移すきっかけをつくることを大切に考えています。そのためには、何より情報の質が問われます。わかりやすく、正しく、そして⾏動したくなるような情報を、多⾓的に伝えることが重要です。また当社のクライアントには、グローバルに展開するラグジュアリーブランドや⼤⼿企業 が多く、彼らはグリーンウォッシュについてもしっかりと意識されています。その⽅々と同じ視点で語れるように、当社では編集者だけでなく全社員必須で、グリーンウォッシュと気候変動の研修を⾏っています。メディアとして社外に向けて啓発する前に、社内を整えていくことも重要だと考えています。読者やユーザーの皆様が気候変動や社会課題を身近に捉え、前向きに選択できるよう、メディアを通じて確かな情報を発信していくこと、さらに発信者自身が学び続けながら信頼性の高い情報を届けること、それが「Educating the Public」です。

─2つめの「Taking Action」は?

自社の事業や職場環境において『環境保全』『女性活躍推進』『伝統文化・アート支援』の3領域を中心に、主体的な行動と課題解決を具体化していく取り組みです。具体例として、ふたつのCO2排出量の算定を⾏っています。ひとつは、会社全体がビジネスを通じてどれくらいのCO2を排出しているかを可視化し、減らしていくこと。もうひとつは、個々のサービスや商品、雑誌⼀冊、コンテンツひとつ、イベント⼀件のライフサイクルで、どれくらいCO2が出ているかを算定し負荷を減らしていく取り組みです。

─3つめの「Offering B2B Solutions」については、いかがでしょうか。

一社だけでは解決できない課題に対し、パートナー企業と共に解決を目指すアプローチです。環境に配慮した広告プランやイベント制作の提供、フェアな商品選択を支える情報開示などを通じて、パートナー企業のサステナブルな事業推進を支えるメディアパートナーを目指しています。具体的には、数年前から「グリーンシフト広告プラン」というソリューションの提供を開始しました。これは、クライアントがイベントで発信したいメッセージや世界観を踏まえ、できる限り負荷を減らすようにイベントを企画した上で、実際のイベントで排出された GHGを算定、レポートを提出し、ご希望によってはその様子や活動をメディアとして発信していく、というものです。

■同社が掲げる「サステナビリティ戦略の3本柱」

─今年から新たに力を入れていることはありますか?

今年からは社内だけでなく、パートナー企業やメディアの皆様も含めた「オープンな学びと対話の場づくり」に一層注力したいと思っています。その一環として、今年6月の環境月間には「なぜ、サステナブルは広がらないのか?」をテーマに、オーガニックコットンの実態と富裕層インサイトにフォーカスした勉強会を開催しました。持続可能なものづくりへの転換過程で生じるサプライチェーン上の課題や、一般には見えにくい生産現場の背景などを共有し、業界全体で理解を深め賛同の輪を広げる取り組みを行っています。また私たちが目指しているのは、課題の共有だけで終わらせず、パートナー企業の「具体的なアクション」に寄与することです。例えば、導入コストや発信方法に悩む現場に対し、当社が持つ最新の生活者意識データや市場インサイトを提供することで、ビジネスの実践に向けたヒントを得ていただく。そうした情報基盤の提供も含めて、パートナーの皆様と共にサステナビリティを推進していきたいと考えています。

■ELLE SHOPのスペシャル「コットン・イン・コンバージョン」Tシャツ販売

─では、大竹さんが個人として、今後伝えていきたいことはどんなことでしょうか?

これは、アパレル業界にいたときの反省でもあるのですが、企業でのサステナビリティは、どうしても枠組みに沿って活動をし、数値を達成すること⾃体が⽬標になってしまいがちです。今も、気がつくと同じことを繰り返しそうな⾃分がいます。推進する側で旗を振っているのに、ふと「私たちは何のためにやっているのだろう」「本当に社内も含めて持続可能な活動になっているのだろうか」と感じることがあります。だから 2026年は、そこを⾒失わないような活動をしていきたいですし、”共感”が鍵になるのではないかと思っています。例えば「環境負荷を減らしましょう」と伝えるだけではなく、私⾃⾝がアパレル業界にいた頃、海外出張で⽬にした⽣産現場のリアルもお伝えする、とか。それを聞いて、「カワイイ」 だけで服を選んでいいのだろうか──そう思ってくださる⽅が、たとえ 1割でもいたら⼗分です。数字から⼊るよりも、そうした実感の伴う話のほうが、興味を持ってもらい、本当にやってみたいと思ってもらえる。そうやって⼀般の⽅々や社員を巻き込みながら、持続可能な活動を続けていける下地をつくっていきたいですね。

─雑誌が紙からデジタルになっていく時代に、ラグジュアリー誌としてのクオリティと、サステナビリティを、どのように両立させていこうとお考えでしょうか?

メディア業界全体としてデジタライゼーションが進む中、単に「紙のボリュームを減らして環境負荷を下げる」というアプローチだけでは、ラグジュアリー誌としての表現力や紙の持つ価値そのものを損なってしまいかねません。また、当社の読者には、知的好奇心が高く、富裕層の方も多いので「雑誌そのものを価値あるメディアとして大切にしたい」という思いをお持ちいただいている方も多いように感じます。それにお応えするためにも、大切なのは、紙というメディアのクオリティを維持しながら、製造工程で使うエネルギー自体を再生可能エネルギーに切り替えていくような、能動的な変革です。私たちは「紙かデジタルか」の二項対立ではなく、それぞれのメディアの価値を高めながらサステナブルな選択肢を追求しています。

─最後に、広告会社に期待することは何でしょうか?

やはり広告会社の皆さんは、知⾒も豊富ですし、最新のデータやアンケート調査など、マーケットを広く捉えていらっしゃいます。最新のデータや知⾒を共有いただくことで、メディアとして読者の価値観やライフスタイルにあった、より響くコンテンツづくりにつなげられると思っていますので、これからもお互いに関係性を深めながら、⼀緒にサステナブルな社会を実現していけたら嬉しいです。

大竹紘子さん 長年ファッション業界で生産マーチャンダイザーとしてグローバルなモノづくりに携わる中で、環境・社会課題への問題意識を深める。これを契機に、サプライチェーンの脱炭素化や循環型ビジネスの推進へとキャリアを転換。2022年より株式会社ハースト婦人画報社 サステナビリティマネージャーに就任。サプライチェーンの脱炭素化と透明性向上を推進するとともに、広告関連ビジネスにおけるCFP算定プロジェクトをリード。質の高いサステナビリティ情報の発信を重視し、グリーンウォッシュ研修など社内教育にも注力している。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Midori Ito