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FASHION MEDIA CHRONICLE #08 アメリカ西海岸へのブレない憧れは、時代や世代を超える Safari編集長 園部仁さん

加速するデジタルシフト、多様化する価値観やライフスタイル。目まぐるしく変化する現代社会において、メディアの在り方も日々進化しています。変わり続けることと、変わらないこと。ファッション情報を届けるメディアの「今」と「これから」に迫ります。今回は2003年に創刊し、アメリカ西海岸のカルチャーと都会的なセンスが共存するライフスタイルを提案し続けている男性誌『Safari(サファリ)』の新編集長、園部仁さんにお話を伺いました。

創刊当時から変わらず貫くカリフォルニアスタイル

—園部編集長の経歴を教えてください。

学生時代に出版社でアルバイトをした経験があり、当時の編集者の方々がすごく楽しそうに仕事をしていたのが印象的でした。それもあって大学卒業後は編集者を志し、出版社、フリーランスで編集者のキャリアを積み、日之出出版に入社。『FINEBOYS』編集部を経て、『Safari』編集部に異動。昨年秋から編集長を務めています。

—『Safari』の読者ターゲットを改めて教えていただけますか。

メイン読者は30代後半から50代の男性をターゲットにしています。2023年に創刊20周年を迎えましたが、創刊以来ずっと読んでいただいている愛読者の方もいらっしゃいます。内容面では創刊当時から変わらずアメリカ西海岸・カリフォルニアのライフスタイルを軸に提案していて、“リラックス&ラグジュアリー”というコンセプトは変わっていません。同じコンセプトでやり続けていますが、新規読者も入ってきていることが特徴かもしれません。『Safari』ではハリウッドセレブをよく扱っていますが、最近では若い世代のセレブも人気なので、それもあり20代後半から30代前半のヤング層も取り込めているのかもしれません。

—ファッションのテイストをわかりやすく言うと?

オフタイムをいかに楽しむかとか、ゴルフやサーフィンなど、自分の趣味を最大限に楽しむ時のファッションですね。ビジネスやドレススタイルでもどこかヌケ感のあるこなれたスタイルです。大人ならではの贅沢な時間に、きちんと質のいいものを着る。そういうシーン提案を心掛けています。

誌面とデジタルに留まらない『Safari』ブランドの拡張

—最近では誌面だけでなく、デジタルも好評だと聞いています。

公式オンライン『Safari Online』を開設するより前に、雑誌として通販事業に取り組んでおり2009年から『Safari Lounge』を展開しています。それぞれに責任者もいますが、今までどおり『Safari』ブランド全体を包括してチェックするようにしています。14万人いるEC会員からもデータを吸い上げて、誌面に反映しています。デジタル市場が拡大しているからこそ、誌面ではただ情報を羅列するだけではなく、しっかり編集して見せていく。誌面が好きな人たちに、さらに喜んでもらえる内容にしていこうという気持ちが強くなりましたね。

—実際の読者とコミュニケーションを取られることもありますか。

年2回、読者参加のゴルフコンペがあるのですが、そこで読者の方々から直接ご意見や情報をいただいたりしますね。あと最近はリアルイベントを実施する機会も増えており、そういうところで読者の方々と接点を持てることは、誌面を作っていく上でもとてもいいインスピレーションになっています。

—百貨店でのイベントやポップアップも多いと伺いました。

そうですね。おかげさまで『Safari』読者には富裕層の方々も多く、実際に足を運んでくださり『Safari』がおすすめするなら、とか、『Safari』の世界観が好きだから、と高額商品の購買きっかけにしてもらえることが多いです。具体的には高級車とコラボして実施したイベントでは2日間で2000万円級の車が12台購入検討の商談に結びつきました。また『Urban Safari』特別号を活用・連動した百貨店の時計フェアでは高級時計が数本売れたり、昨年はブランドとのコラボスニーカーを数千足作ったのですが、即日完売しました。さすがにヒヤヒヤしましたが、『Safari』ブランドが商品に付加価値を与え、信頼いただけていること、エンゲージメントの高さを実感した事例でもありますね。それ以外にも豪華客船のコンセプトを含めたブランディングや別荘のプロデュース依頼などもあります。今後もフットワーク軽く、いろんなことに挑戦していきたいですね。

雑誌ならではのコミュニティ作りがカギ

—富裕層マーケティングはファッションを含めた高額商品においては不可欠なアプローチですね。

はい。そのひとつとして展開しているのが先ほどの話でもあげた『Urban Safari』で、新聞の折り込みがメインの“ハイクオリティ・タブロイド・マガジン”です。年8回ほど刊行していますが、新聞折り込み以外にも、百貨店の外商顧客、医師の先生方、高級フィットネスの会員などに直接お送りしており、合計40万人に配布しています。こちらはプレミアム・メディアとして編集ページも独自に進行しています。掲載された高額商品が購入されたとの声も多くいただきます。雑誌を取り巻く環境が厳しい中でも『Safari』に興味を持っていただけるきっかけになったり、また、公式オンラインやECへの流入、新規会員も増加しています。

—富裕層以外にもアスリートに着目した『Athlete Safari』というジャンルにも挑戦されていますね。

『Safari』本誌内で毎号注目のアスリートを取り上げる連載ページから派生し、不定期で発行している『Athlete Safari』では、Bリーグなどプロスポーツリーグに注目しています。Bリーグの年間MVPを決めるアワードがあるのですが、そこに出場する選手たちのスタイリングを『Safari』がプロデュースし、同時進行でその様子を撮影し1冊にまとめました。選手たちのプレイ時のユニフォーム姿とは違った新たな魅力を引き出し、新たなファンを取り込むことに成功した、とのお声をいただきました。『Safari』が貢献できることはまだまだあるなと感じています。

前編集長から受け継いだものをつないでいく

—今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

雑誌メディアにとって本当に厳しい時代になっていると思います。その中でいかに『Safari』というブランドを続けていくか、ということが大切だと痛感しています。前の編集長である榊原は20年間、『Safari』編集長を務めていました。そして実はデザイナーを始め、制作スタッフもほとんど創刊時から変わっていないんです。そんな編集長の後任というプレッシャーはありますが、変えないことの大切さもあると思いますし、時代に合わせて柔軟かつアグレッシブにチャレンジしていくことも必要だと思っています。これからも『Safari』を好きでいてくれる人たちに向けて、試行錯誤しながらいいモノを届けていきたいなと思っています。

—若い世代の読者を意識することもありますか。

もちろんです。僕らが若い頃に比べ、特に情報の取り方などはかなり変わったこともあり、個人的に「最近の10代は西海岸と東海岸の違いって分かるのかな?」と思っていました。すると、たまたまなんですが、電車の中で若い学生たちが「俺はどちらかっていうと西派なんだよね」みたいな話をしていたんです。東のニューヨークと西のロサンゼルス、どっちも魅力的だけど、やっぱり西の雰囲気が好きなんだよねー、と。あー、みんなちゃんと知ってるんだな、と驚いた反面、それであれば今の若い世代とも何か共感・共有できるものもあるんだな、と嬉しく思った出来事でした。

そして、いよいよ2028年にはロサンゼルスオリンピックも開催されます。僕らはカリフォルニアのカルチャーがベースにありますし、さらにはアスリートも扱っているので、まるで僕らのためのイベントじゃないか、なんて勝手に思っています(笑)。ファッション、スポーツ、食も音楽も、西海岸から発信されるカルチャーにワクワクする気持ちを、これからもいろんな世代と共に盛り上げていければ嬉しいですね。

園部仁さん 1978年生まれ。東京都出身。日之出出版に入社し、『FINEBOYS』編集部を経て『Safari』編集部へ。2024年10月、前任の榊原達弥氏を引き継ぎ現職。趣味は音楽鑑賞で、いつでもどこかにいいバンドいないかなと探し中。

Photo:Mizuho Takamura

Text:Asako Fujita