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CLOUDY 銅冶勇人さんインタビュー/フェアトレードは言わずプロダクト重視。 現地雇用を生むことを目的にした経営路線

外資系証券会社在職中にNPO法人を立ち上げ、アフリカの支援をスタート。退職後にアパレルブランド「CLOUDY」を立ち上げ、現在はその売上をアフリカの教育や雇用の創出に活用するという循環型ビジネスを生み出している銅冶勇人さん。なぜアフリカに、なぜアパレルに目を向けたのか。さらに、世間のSDGsに関する動きを銅冶さんはどう捉えているのか伺いました。

効率化の時代にあえて不便さを追求

―銅冶さんがアフリカに目を向けるようになったのは学生時代の旅行がきっかけだそうですね。

大学の卒業旅行で、「二度と行かない場所で、二度とできない経験をしよう」とマサイ族の家にホームステイしたのがアフリカとの出会いでした。そのとき、学校にも通えないでないでいる子どもたちの姿に衝撃を覚え、学校建設などの支援をスタート。ところが自分が設立に携わった学校を卒業した女の子たちがその後、娼婦になっているのを知って。アフリカでは女性たちが働く場が圧倒的に少ないんです。だったら、女性の雇用を生む場を作るべきだと。

―結果、外資系証券会社を辞めて起業されます。なぜ、アパレルを選んだのでしょうか。

働く方たちの国の文化や歴史、人間性など現地の素材と良さを活かして継続的に数字を作ることのできるビジネスをつくることがいちばんだと考えました。それは一体、なんだろうと現地の街を歩き回っていると、色鮮やかなアフリカンテキスタイルに出会い、庭先でミシンを動かしたり、縫い物をしているお母さんたちに出会いました。より多くの雇用を生むという部分でも現地で縫製工場を作ろうと考えたことがきっかけでした。

―実際、ビジネスにしていくうえでご苦労された点はどんなことでしょう。

最初の3年間は資金面でも業務面でも大変でした。すべて自己資金で借入金なしでなんとか乗り切りながら、人手が足りずに自分で朝から伝票書きして発送作業してあっという間に一日が終わる毎日。次第にブランドの認知度が高まり、ガーナの自社工場に雇用できる人が増え始めると今度は、「この人も雇ってあげて」と従業員がどんどん人を連れてきたり、かと思えば突然来なくなる人がいたり。ときには工場のミシンを勝手に売られるなんてことも。日本の常識では考えられないことが日々起きる。でもね、ここはアフリカ。自分たちの当たり前が当たり前ではないんです。自分のものさしで人も国も物事も測ること自体が無駄なことなのだと悟りました。

―途上国支援を慈善活動にとどまらせず、ビジネスとして成り立たせ、さらにそれを継続させるにはどんなことが必要なのでしょうか。

僕自身が考え、実行していることは3つあります。一つめは、「支援の捉え方」。“支援”というと「○○をしてあげている」ことと思っている人が多いですよね。僕はそうではなく、「この人たちと一緒に何ができるだろうか」を考え、実際に行動に移すことが重要だと考えています。二つめは「不便さの追求」。ビジネス=利益を生むためのものと捉えると、利便性や生産性を優先させてしまいます。例えば、工場にマシンを導入すればどんどん服が作れて、利益が生まれ、それを現地の学校建設や工場建設に充てることができる。でも、人の代わりに動くマシンは雇用を奪ってしまいます。それでは本末転倒。だって、僕は「現地の女性たちの働く場をつくろう」と、このビジネスを始めたのだから。なので、あえて便利さには目をつむる。三つ目は「自分たちにしかしかできないことを追求する」。効率よりも雇用を重視する自分たちの場合、あえて手間のかかるプロダクトを選んでいます。商品も制作過程もシンプルにしない、ブランドを名乗る以上、唯一無二の存在にならなければその価値はないと思うんです。誰かの成功事例を辿ることに僕は魅力を感じないし、継続性もないように感じるからです。数字に目が行きがちなときこそ、何を目的にこのブランドを立ち上げたかを思い起し、何を達成したいのかと自分に問いかける。それがオリジナリティを生むきっかけになり、ブランディングにつながるのではないでしょうか。

一緒に何ができるかを考えるのが楽しい

―ブランド設立から7年経った今、アフリカ現地の反応はいかがですか?

最初の雇用者はわずか3人。それが今では600人に増えました。皆さん、一日一食食べるのがやっと。学校に行ったことがないという方がほとんどです。なかには14歳で母親になっている少女も。そうした方たちが「子どもたちを学校に行かせることができる!」「お母さんにプレゼント買ってあげたよ!」と嬉しそうに話すのを見ているとこっちまで嬉しくなっちゃう。
工場で働く方の中には70代のおばあちゃんもいれば、聴覚障がいの方もいます。共通しているのは、皆さんとにかく明るい。バスケット工場で働いている70歳のおばあちゃんなんて、仕事の合間に踊りを披露してくれる。彼女が立ち上がって踊り始めると、みんなも一緒に輪になって踊る。僕もいつもつき合わされます。ある日、ずいぶん激しい踊りをするな!と思ったら、「求愛の踊り」だそうで。おばあちゃんに求愛されちゃいました(笑)
聴覚障がいの方は、コミュニケーション能力の高さがものすごく高い! 顔や手など身体全体で喜びや悲しみといった感情をすべて表現してくれます。「伝えよう!」という強い思いがあるから、言語が通じなくても思いは通じるんですよね。

―「CLOUDY」のアイテムはそんな現地の皆さんを表しているかのようなパワフルな色彩が特徴です。

黄色、緑、赤の色使いが絶妙ですよね。黄色は富や資源の象徴。緑は自然。赤は奴隷制度下で人々が流した血を表していると言われています。“血の赤”といっても彼らがポジティブに捉えているのにも驚きました。「あそこから自分たちは立ち上がったんだ。だから、もっともっとチャレンジしていこう!」。そうした想いが色にも柄にも現れています。他にも色や柄にはメッセージがそれぞれあって、知れば知るほどアフリカンテキスタイルの魅力をより感じることができます。

―アイテムが並ぶ店内は、そうしたアフリカの明るいイメージがメインで、途上国支援についてのアピールは見当たりません。

あくまで、アパレルブランドとしてまず主観でプロダクトを気に入っていただけることが大切です。そこにまずアフリカの貧困を表すような写真で勝負をしてしまっては、一般の方は「何かをしなければいけないのでは・・」と正直お店に入りにくですし、それが商品クオリティよりも重要視されるブランドではスケールアップしていかないと個人的に考えました。

これはSDGsの取り組みにもかかってくるのですが、表面的な支援と捉えてほしくないからこそ、あえてそこはウリにしていません。「CLOUDY」のプロダクトを通して、お客さまも一緒にアクションを体感してもらえるブランドになっていくことが重要だと思っています。

―今、あらゆる企業がSDGsに舵を切る中で銅冶さんが思うこととは?

SDGsの取り組みを義務感で表現することに終始してほしくないなとは思います。あらゆる環境問題、社会問題を“自分ゴト”として捉えることがSDGsの本質。だからこそ、「これをすればOK」とゴールを目指すのではなく、何が問題なのか、自分なら何ができるかを自分自身で考えるという意識を持つことの方が重要だと思います。まずはスタートラインに立つ。スタートのアクションはささいなことでいいんです。シャワーの水を出しっぱなしにしていてもったいないなと思ったらこまめに蛇口をひねる。段ボールを捨てるときにビニールがついていたら、再利用しやすいようにビニールをはがす。今、できることをまずはする。「地球の未来のために何ができるか」と頭でっかちに考えるよりも「今できることをやろう!」と行動に移すことのほうが早く、分かりやすく、結果よい方向にすすむのではないでしょうか。

―今後、ご自身の活動はどうすすめていこうとお考えですか?

「人と一緒に何ができるか」を常に考えていきたいです。人と接する中で大切なのはその人から何を学ぶか。それを気づかせてくれたのがゴールドマン・サックス時代の女性上司。入社したとき僕は英語がまったくできず、合格率100%近い社内試験にも落ちて。クビになる…と思ったときに「試験なんて受けなくていい。あなたはあなたらしさを発揮できるようにとことん、やりなさい」と声をかけてくれたんです。彼女はそれから4年後にガンで亡くなってしまいました。自分を見捨てず、「一緒にやろう!」と手を差し伸べてくれた人たちがいたからこそ、今の自分がある。そう思えるからこそ、20代半ばで心に誓った「アフリカの人たちと一緒に何かを」はずっと続け、さらに多くの方と多くのアクションを起していきたいと考えています。

【株式会社DOYA CEO / 認定NPO法人Doooooooo 代表理事】東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2008年にゴールドマン・サックス証券株式会社に入社。2010年特定非営利活動法人Dooooooooを創立。2015年に同証券会社を退職し、同年株式会社DOYAを設立し、アパレルブランド「CLOUDY」を展開。現在はアフリカで4校の学校を運営。ガーナ国内に5カ所の工場を構え、障がい者や女性の雇用を創出。給食配布、性教育や農業支援プロジェクトなどの健康支援も行う。

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