「地球というひとつの大きな生命体を意識する」 宇宙、旅、ファッション、自分の“大好き”がつながっていく感覚 モデルNOMAさん
Fashion × Sustainabilityをテーマに、ファッション業界で活躍するトップランナーの方々とファッションの未来や可能性、これからのビジネスのヒントを探る連載企画。ファッションや美容モデルとして活躍するとともに、環境省森里川海アンバサダーや植物療法・自然科学の博識を活かしたメディア連載、ラジオパーソナリティ、そして著書『WE EARTH 〜海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部〜』の執筆など、幅広く活動されているNOMA(ノーマ)さん。その飽くなき探究心の根源を伺いました。
佐賀の自然の中で育ったワンダーワイルドガール
―まずはモデルになるきっかけを教えてください
モデルとしてのデビューは18歳です。高校卒業まで佐賀県の自然豊かな田舎町で暮らしていて、大学で福岡に出てきて、モデルはその頃から。ある日突然携帯に電話がかかってきて「モデル探していて、お会いできませんか?」って。都会って怖っ!と思いましたが、同時にやってみたい!とも思い飛び込みました。その電話をかけてきてくれた方が福岡で超有名なスタイリストさんで、その出会いをきっかけにたくさんの経験をさせていただきました。
―大学では何を学ばれていたんですか?
国際法律です。人権やジェンダー、国際紛争や国際環境問題など、今となってはSDGsのはしりみたいなことを学んでいましたが、当時は全然マイナーな学部でした(笑)。でもすごく面白くて、のめり込みました。その一環で韓国の山奥にボランティアに行ったり。旅をするようになったのもその頃からですね。座学で学ぶものと現地で実際に見て体験するものは全然違うなと感じました。
―勉強したことを自分の目で確かめたいとは、すごくアクティブですね。
自然豊かな環境の中で、五感をフル回転させながら遊んでいた野生児でしたからね。学校の勉強はそれほど好きではなかったんですが、興味のあることに関しては本を読み漁り、自分のレンズで見て、知識を蓄えることを自然にやっていました。でもちょうど20歳の頃、父が日本人で母がアメリカ人なので、自分の国籍を決めるように言われ。それまで好奇心と感性に沿って生きてきたのに、いきなり人生の大きな決断を左脳的に考えざるをえなくなり、結果的に考え過ぎて体調を崩してしまいました。いよいよどうしようもなくなった時に「そうだ、インド行こう」って。
旅を通して知った自分と地球のつながり
―なぜインドだったのですか?
昔からインドが好きだったんです。18歳からヨガにハマっていたのもありましたが、とにかくインド料理屋が好きで。インド料理屋ってお店に入った瞬間、魔法がかかったように世界がインドになるじゃないですか。店内の装飾もそうですが、何よりもあのハーブとかスパイスの香りが大好きでした。それで実際にインドに行って、ガンジス川やサルナートを経由しながらインド北部を寝台列車で巡り、現地の文化に触れ、現実世界で起きている社会問題を目の当たりにすることで、自分の野生的な感覚を取り戻していきました。そして「国籍にとらわれ過ぎず、自分が情熱を注げる道を進もう」と決心し、モデルのお仕事に専念するため、大学卒業と同時に東京に出てきました。
―お話を伺うとモデル業よりも、サステナビリティや地球環境への興味が先にあったという印象ですね。
そうですね。ずっと点があったのは確かですね。でも私にとって宇宙や地球のことを考えることも、旅に出て異文化に触れることも、好きな服を着ることも、モデルとして表現することも、昔から大好きなことで、それにずっとのめり込んでいるだけなんです。その中で時折、無性に行きたい場所ができ、その旅で地球を知り、地球を知ると自分を知ることに戻ってくる。
―地球を知ると自分を知ることに戻ってくる、とは?
もともと私は体が弱くて、体調を崩しやすかったんです。でもモデルのお仕事は体が資本。心身のバランスを向上させるために勉強したのが自然療法でした。昔から植物は身近にあったものでしたし、子供の頃、お腹が痛い時に母がカモミール飲ませてくれていたな、とか、あれってすごいことだったんだ!と気付いて、ハーブや漢方のことを独学で勉強しました。その中でタラソテラピー(海洋療法)というものを知ったんです。簡単にいうと、海水のミネラルを経皮吸収することで体の中から老廃物を出す、みたいなものなのですが、それの1日体験にいったら、すごく良かった。でも、よくよく考えてみれば、地球上の生物はもともと海から生まれてきましたよね。海の成分が私たちのDNAの中に組み込まれているんです。なるほど!母なる海ってすごい!と感動しました。そういう意味で地球を知ることは自分を知ることにもなるんです。もし私が屈強な体の持ち主だったら、ここまで地球のことを考えてなかったかもしれませんね。
点と点が線に。手探りで道を切り開いたモデル時代
―そして東京でモデルとして活躍されますが、旅本を出版されたと聞きました。
ちょうど2000年代ごろは、ファッションもメディアもライフスタイルに注目が集まり始めた時期でした。モデルがライフスタイル本を出すなど、モデル業をやりながらプラスアルファで何かを表現する土壌が整いつつありました。でも旅の本を出しているモデルはまだいませんでしたし、旅をすることや世界の勉強をすることは継続していたので、シェアしたいことも沢山ありました。いろんなところで「旅本を出したい!」って熱弁していたら、その意気込みを買ってくれた編集者さんがWEBマガジンで連載させてくれて、それを読んでくれた別の出版社の方が旅エッセイ本を作る機会をくださりました。
本を出したことをきっかけに、モデル以外のお仕事も増えました。いくつかのメディアでカルチャー連載をやらせてもらったり、音楽や映画のお仕事も。そして28歳ぐらいの時に飲食店のプロデュース、レストランやカフェのメニュー監修などをやらせてもらえる機会があって、それまで実践していたマクロビオティックや、ハーブやスパイスなど、自然の摂理と食事方法を組み合わせた提案などをさせてもらいました。
―まさにご自身が取り入れていたライフワークを発信する機会になったと。
本当にありがたいことです。それまで自分の中に溜め込んでいた地球の話や植物の力とか、まさに自分が助けられた自然のエッセンスを誰かにシェアできることがすごく嬉しかったです。でも、今となっては植物療法やマクロビオティックもだいぶ認知されていますが、当時はまだ新しいトレンドのひとつとして注目され始めた時期だったので、ちょっとマニアックではありましたね(笑)。今でも憶えているんですが、当時、お世話になっていた編集者さんに「自然のエレメンツで美容本を作りたいんです!!」と直談判したら「え〜〜自然のエレメンツぅ〜?」って、まったく刺さらなかった(笑)。
―それが時を経て、新書の『WE EARTH 〜海・微生物・緑・土・星・空・虹 7つのキーワードで知る地球のこと全部〜』につながっているんですね?
はい。でも実はこれ、当初はライフスタイル本を作る予定だったんです。私のインスタを見てくれていた編集者さんから「NOMAさんの暮らしと世界観を一冊の本にしたい!」とお声がけいただきました。そして日々の暮らしや日常的な心身のケアを整理したら副題になっている7つのエレメンツが浮き彫りになりました。このエレメンツを軸に本の構成をまとめていたところ、編集者さんから各章に監修者をつけるのはどうかとご提案頂き…。私としては贅沢な機会に喜んで受け入れさせて頂いたのですが、よくよく考えてみると監修者がつくライフスタイル本って、ライフスタイル本とは言わないですよね。結果的に地球のエコシステムもわかる地球サイエンスカルチャー本へと、企画を大きくシフトしました。
地球上のエレメンツは干渉し合っている。自分の気づきを次世代に。
―数年前に比べ世間的にも、SDGsなどの考え方は浸透してきたように思います。
SDGsの考え方が浸透することは素晴らしいと思います。ですが、言葉のひとり歩きで不必要な分断が生まれないかを懸念したりもします。例えば“気候正義”という言葉。その目的である気候変動の影響や負担を公平に共有し、弱者の権利を保護するということは素晴らしく、進めるべきことだと思いますが、個人的に“正義”という言葉を使うことには慎重になってしまいます。それは大学時代に国際法律を通して紛争問題等を学んでいた背景もあるんですが、正義という言葉は無意識に分断を深めてしまうこともあります。正義を掲げると、その瞬間に正義じゃない人をつくってしまう。もっと視野を広く、地球というひとつの大きな生命体が呼吸していると捉えられたならば、自ずと認識や向き合い方も変わるはず。もう少しお互いに優しく接しあえる社会づくりを心がけたいな、と思っています。私の周りにもハードコアな友人が多いので、「NOMA、それじゃ甘いよ〜」と言われるかもしれないですけど、これはこれで私なりのハードロックだと思っています。
―その広い視野を養うためにできることはなんだと思いますか?
実体験から言えることとしては、幼少期から地球のことをもっとポジティブに、楽しく知れるきっかけをつくれると良いのかなと感じます。私自身、佐賀の自然の中で育ったので、毎日泥だらけになりながら植物と戯れ、夜空に輝く星をみるのが楽しみでしょうがなかった。要するに面白い!ワクワク!が起点になっています。一方で最近の、特に都会に住んでいる子供たちが地球を意識するのは、ゲリラ豪雨や異常気象など「ちょっとおかしいぞ?」というのが入り口になってしまっている気がします。地球環境を考えることが学校の授業になっていることは素晴らしいと思いますが、知るって楽しい、とか、そういうことだったんだ!とか、地球を楽しく学ぶ、FUNな要素を組み込んでいけるといいのかなと思っています。私も今は娘がいて、拠点を都内から近く緑の多い横浜に移し、陶芸家である夫のアトリエがある滋賀、そして母のいるアメリカを行き来しています。私がそうだったように、娘にもたくさん自然に触れて、いろんな文化を吸収してほしいなと願っています。
―メディアなどに期待することはありますか?
もともと雑誌メディアを中心にモデル業も連載などもやらせてもらっていましたし、読書も大好きです。雑誌や書店が持っている、あの類友が集まっている感じとか、その中で偶然の出会いというかセレンディピティみたいなものが、いろんな発展につながっていったと思うんです。今はメディアやコミュニティのプラットフォームがデジタル主軸になっていると思いますが、そういう体温のあるつながりというものをネット上でも再現できるといいですよね。答えはまだないんですが。
―今後、やっていきたいことなどがあれば教えてください。
たくさんあります!まず絵本は作りたいなと思っています。もう原稿もほぼほぼ仕上がっています(笑)。あとはモデル業も大好きなので、引き続きちゃんとやっていきたいですね。ライフスタイルに寄り過ぎていると色がつきやすいのは事実なのですが、ニュートラルに綺麗なものを綺麗に見せる、その表現者としての自分も磨いていきたいです。もちろん連載などもやりたいですが(笑)!
NOMA(ノーマ)さん ファッション誌や美容誌を中心に活躍するモデル。日本人の父とシシリア系アメリカ人の母の間に生まれ、自然豊かな佐賀県で育つ。両親の影響で地球環境や宇宙の神秘に魅せられ、小学生の頃の将来の夢はインディー・ジョーンズ。大学では国際情勢や国際環境法を学び、大学卒業後は在学中より始めていたモデル業を本格化。2011年には世界各地を巡った旅エッセイ本を出版。独学で学んだ植物学や薬草学に加え、植物療法、アロマテラピー、アロマブレンドデザイナー、フードレメディーの資格を取得し、レストランやカフェのプロデュースも行う。環境省森里川海アンバサダー、グリーンピースオーシャンアンバサダー等エコロジストとしての活動。2021年書籍『WE EARTH 〜海、微生物、緑、土、星、空、虹、7つのキーワードで知る地球のこと全部〜』を出版。
Photo: Takuya Maeda (TRON)
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