「創造的発想でファッション産業の未来を照らす」サステナビリティ×テクノロジーの可能性 Synflux株式会社 代表取締役CEO/スペキュラティヴ・ファッションデザイナー 川崎和也さん
Fashion × Sustainabilityをテーマに、ファッション業界で活躍するトップランナーの方々とファッションの未来や可能性、これからのビジネスのヒントを探る連載企画。今回は、世界的アワードも受賞したシステム「Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)」でファッション業界において、環境負荷を少なくできるイノベーションをもたらそうとしているSynfluxの川崎和也さんにインタビュー。AIや3D技術などのテクノロジーは環境問題にどこまで切り込めるのか。川崎さんが見据えるファッションデザインの未来について伺いました。
環境問題への解決策をSFレベルで発想
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―次世代ファッションテック企業として注目を集めている御社。あらためて、Synfluxとはどんな会社なのかお教えいただけますか?
“惑星のためのファッション(FASHION FOR THE PLANET)”というミッションを掲げ、ファッション産業の持続可能性に向けた事業に取り組んでいるスタートアップです。AIや3D技術などの先端テクノロジーを活用した「Algorithmic Couture」というソフトウェアを展開し、国内外の複数のブランドに向けて、布の廃棄削減など環境問題に最適化した新しいファッションデザインを提案しています。
―Algorithmic Coutureとは、どのような技術なのでしょうか。
AIと3D技術を掛け合わせることで、型紙を作る過程で出る布の廃棄を最小限に抑えることができるシステムです。通常のパターンメイキングですと、生地に型紙をあてはめて裁断するため、どうしても捨てる部分が多くなってしまいます。そこで、コンピュータが衣服の3Dデータを分析することで、廃棄最小化のデザイン提案と型紙データの自動生成を可能にしました。これによって、布の廃棄量が従来の3分の1に、使用する布の量は最大15%減にすることができます。
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―そもそも川崎さんがファッション産業に注目をしたのにはどんなきっかけが?
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)では、3Dプリンターに代表されるデジタルなものづくりを研究していました。その頃、英国のデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドのドキュメンタリー映画を観て、ファッションデザインの創造性に強く惹かれたんです。デザイナーって、論理が飛躍するようなところがあるのですが、それがとにかく面白い。目の前のシーズンの制作をやっていながら頭の中は次の未来のことを考え、常に高速回転で自由な発想と挑戦マインドを持ち合わせている。その一方で、産業が抱える深刻な環境問題や、デジタル化の遅れといった負の側面を抱えていることも知りました。そこからファッションに関する論文や書籍を読み漁り、隣の研究室にいるテクノロジーを専門にしている仲間を巻き込んで日々、ディスカッション。デジタルなものづくりやアルゴリズムの開発などが、環境問題を創造的に解決する手段の一つになるのではと考え、所属研究室の後輩である佐野虎太郎と2019年にSynfluxを共同創業しました。
―新たなものに興味を持ち、カタチにしようとする発想力の原点はどこにあるのでしょうか。
子どもの頃からよく読んでいたファンタジーやSF小説です。物語の挿絵に描かれている架空の道具や地図、登場人物の相関図などを見ながら、妄想の世界に浸るのが大好きでした。「これが正解」「これが勝ち筋」という既成概念がまん延する世の中で、「他のやり方があるかも」と、別の可能性を探る発想は、SFの世界に影響されたところもあるかもしれません。そもそも、“スペキュラティヴ・ファッションデザイナー”なんて、へんてこな肩書をつけたのもそう。今までの方法ではサステナビリティの問題を解決できないとなれば、SFレベルでファッション産業のことを考えるのもあり。私自身は「物事を深く考える」「未来を考える」といったスペキュラティヴな発想を大事にしたいと思っていて、みんなで一緒にスペキュレーションしようよ!と声を挙げています。
AIをいかに面白く使うかがカギ
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doublet DISPOSAL REDUCTION HOODIE / 2025年, FRANKENSTEIN CUTTING SHIRT / 2024年
―サステナブルな問題について、もっと面白く、楽しく、未来を描くという発想がなんとも新鮮に感じます。
もともとファッションデザイナーの思考にはそうした未来志向の性格が備わっていると思います。三宅一生氏は、料亭の板前の包丁さばきからインスピレーションを得て初期のコレクションに「包丁カット」を誕生させた。SynfluxはA-POC ABLE ISSEY MIYAKEとの協業で、服作りの新たな可能性を探究するために「TYPE-IX Synflux project」を共につくり上げました。doubletの井野将之氏とのプロジェクトのお題は「フランケンシュタイン」。Algorithmic Coutureによって生成したパターンをパッチワークのように繋げる工程を、フランケンシュタインのツギハギとして表現し、ジャケットやデニムアイテムを共同制作させていただきました。Synfluxの技術を「環境配慮」や「効率化」といったことにとどまらせることなく、デザインに生かしていくその発想に、私自身が刺激を受けました。

HATRA AUBIK / 2019年
―Synfluxはさまざまなブランドと協業されていますが、AIなど最新のテクノロジーをどのように活用されているのでしょうか。
服作りは昔から、布をつくり、パターンを引いて、裁断して、縫って、加工をするという、ある程度の流れが決まっています。その途中の段階に新しいテクノロジーを加えようとするとき、どこでどう生かすかはそれぞれです。例えば、THE NORTH FACEでは、デザインはあくまでデザイナーがやり、パタンナーが型紙を引く。Synfluxでは、その型紙を取り込み、廃棄量を減らす最適化の部分を調整する役割を担っています。一方、A-POC ABLE ISSEY MIYAKEやdoubletでは、デザインの段階から関わらせていただきました。アルゴリズムというテクノロジーによって膨大なパターンのシミュレーションを生成し、エンジニアリングチームや開発者がそれを評価し、解釈する。その試行錯誤を繰り返しながら進める方法です。アルゴリズムは量とバリエーションは得意ですからアイデアの幅がどんどん広がっていく。Synfluxであれば、その背景にテキスタイルの廃棄やロスを減らしていくという明確なミッションがあるので、サステナブルファッションとしての付加価値を深めることができます。
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THE NORTH FACE Geometric Dot Shot Jacket / 2024年
―逆に、AIなどによる変革に脅威を感じる人もいるのではないでしょうか。
実際、「型紙はもう人間が引かなくてもよくなるんですか?」とよく言われるのですが、「そうはなりません」と答えています。過去を振り返ってみると、織機やミシンも、誕生したときにはハイテクだったはず。AIも同じように人間にとってのあたりまえの道具になっていくと思います。だから、デジタル技術がすべての作業を自動化することでもなければ、AIがデザイナーに取って代わるわけでもない。結局は、ファッションをサステナブルに進化させるために、AIなどのテクノロジーをどうやって面白く使うかということが大切なのではないでしょうか。
対話と共有を重ねサステナブルな未来を描く

ロンドン・Fabrica Xにて2026年6月まで開催中の展覧会「Performance Without Toxicity」に参加。Photo Credit: Calum Barlow
―今後の展望についてお聞かせください。
新しいニュースとしては、EUで展開されているSFDR(Sustainable Finance Disclosure Regulation:サステナブルファイナンス開示規則)の最もハードルが高いArticle 9から投資を受けることが決まりました。これは、日本の企業では初めてのことです。EUは今、本気で経済と持続可能性を両立させようとしています。そこから投資を受けるとあれば、自分たちも本腰を入れてその期待に応えながら、グローバル市場への展開を図っていきたいと考えています。
―課題は経済とサステナビリティの両立ということなのですね。
サステナビリティを突き詰めていくと、「明日から洋服を一切つくらない」という極論に到達しかねません。私は、それを求めてはいません。利益を生み、経済を回す資本主義のシステムの中に、どうやってサステナビリティや循環といった概念を導入できるかを多様な関係者と共有することが大切だと思っているんです。そのために必要なのは対話。衣服生産において避けられない素材廃棄を最小限に抑えるために、各々が持つビジョンを言葉なり、デザインなりにして表現し、対話を重ねて共有していく。そうすることで、ファッション産業の豊かな未来が開いていくのではないでしょうか。
―ファッション産業の未来に向けて、御社に対する国内外からの期待がさらに高まっているのを感じます。
私たちが今、手がけているのは、ファッションにおけるサステナビリティを支えるテクノロジー、インフラ、システムを作ること。そのビジョンや背景にある思想や実践をまとめた書籍『惑星のためのファッション』を出版しました。ぜひ、サステナビリティのこれからに関心がある方には手に取っていただきたいです。そこを、スタートアップならではのフットワークのよさとチャレンジマインドを生かしながら、あらゆる衣服をつくる過程において、廃棄ゼロに向けての取り組みを日本から世界へと発信していく。その活動が、サステナブルファッションデザインの楽しさを次世代につなげる一助になれば幸いです。
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川崎和也さん 1991年、新潟県生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科エクスデザインプログラム修士課程修了後、現COOの佐野虎太郎氏とSynfluxを共同創業。主な受賞に、ケリング・ジェネレーション・アワード・ファイナリスト、第41回毎日ファッション大賞 新人賞・資生堂奨励賞、H&M財団グローバルチェンジアワード特別賞など。2026年1月に『惑星のためのファッション 持続可能な社会を実現する、衣服と技術のデザイン戦略』(ビー・エヌ・エヌ、2026)を上梓。
Photo:Kotera Rio
Text:Tomoko Hori
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