スタイリスト・EDISTORIAL STORE オーナー 小沢宏さん/DEAD STOCKに新たな息吹を与え、LIVE STOCKとして蘇らせる
アパレルメーカーが抱える経年在庫(DEAD STOCK)に目を向け、2022年5月に長野県上田市にてDEAD STOCKをLIVE STOCKに生まれ変わらせて販売する「EDISTORIAL STORE」ショップをオープンしたスタイリストの小沢宏さん。40年近くにおよぶスタイリストとしての経験を活かし、サステナブルな活動へと広がりを見せる小沢さんの行動や思考の源を探りに上田のショップを訪ねてみました。
雑誌の3D化をコンセプトにしたショップ
―長年にわたり、ファッション業界の第一線で活躍し続ける小沢さん。そもそも、どんなことがきっかけでスタイリストとして活躍するに至ったのでしょうか。
長野県上田市という地方都市で生まれ育った僕にとって、何よりの関心事といえばファッション。中学高校時代は創刊から間もないPOPEYEが愛読書でした。なかでも興味を引いたのが表紙に度々登場する、髭を生やした男性。彼の名前は御供秀彦さん。スタイリストであり編集者でありライターでありモデルでもある、憧れの存在でした。御供さんのような仕事を夢見て、大学進学を機に上京。大学3年のときに、人づてを頼って、とうとう御供さんご本人に会って、手書きの名刺を渡すことができたんです。それからしばらくして、なんとご本人から電話が。「ミトモですけど!明日、来れる?」。返事は「はい!」一択ですよね。この1本の電話がきっかけで、僕は御供さんのアシスタントとして働くことになりました。
―憧れの業界に入ってみた印象はいかがでしたか?
やることが多すぎて、目が回るような忙しさでした。昼間は東銀座にあるPOPEYEの編集部でスタイリングや編集のアシスタントをして、夜は西麻布で御供さんが仕事仲間と運営していた「TOOLS BAR」というクラブの手伝いを明け方まで。2、3時間寝て、また編集部に行っての繰り返し。ただね、どうしようもないくらい楽しかった。だって、雑誌でしか見たことがなかったような人たちが常に周りにいるんです。僕はアシスタントを2年ぐらいしてから独り立ちすることになったのですが、その時点で自分でスタイリングして原稿書いて、ページも作っていました。そうしたPOPEYE時代の蓄積が今につながっています。
―スタイリストとして第一線で活躍し続けている小沢さんが、故郷の上田市にショップをオープンしたことは業界内でも話題になりました。
以前から、自分がやってきたことを表現する場としてお店を作るのもありだなとは思っていました。ただし、作るなら、今まで誰もやったことのないものを、ゼロイチの仕組みからはじめてみたくて。その“誰もやったことのないもの”がひらめいたきっかけが、撮影中のカメラマンとの何気ない会話でした。「小沢さんも古着屋とか行くんですか?てっきり、着てるもの全部ハイブランドだと思いました」。彼の言ったひとことでピンときたんです。新しい、古い、高い、安いではなく、“小沢宏”という個人が選ぶことで洋服に新たな価値を与えることができるかもしれないと。つまり、リースしてきた洋服やアイテムを僕自身がコーディネートしてモデルに着せたり、物撮りして、ページを作るという雑誌づくりでやってきたことをそのまま3D化する。そんな考えから誕生したのがこの「EDISTORIAL STORE」という場です。
―ビルの一角には、小沢さんがさまざまなブランドと交渉して1点1点集めたアイテムがストックされています。
扱っている商品のメインは、セレクトショップやブランドの倉庫で眠っていた経年在庫や不良在庫と呼ばれる、いわゆるDEAD STOCK(デッドストック)。スタイリストとして「これはまだまだ価値がある」と思ったものをピックアップして、新たな命を吹き込むことから、ここでは『LIVE STOCK(ライブストック)』と呼んでいます。
店内には、売れ残った新品のLIVE STOCKのほか、MASH-UP(マッシュアップ)といって、シャツにB級品のバンダナを縫い付けるなど、僕がちょっとだけ手を加えたものもあります。一般的にはアップサイクルと言うんでしょうけれど、DJが曲と曲をつなぐときに使う手法を言う「マッシュアップ」という言い回しのほうがイメージに近い。僕の場合、言葉というものに敏感で、呼び方ひとつとっても、世の中の常識を必ず、自分の中で咀嚼するんです。それで、引っかかることに関しては一生懸命噛み砕いて考えて、雑誌フィルターを通して自分がしっくりくる言葉を選んでいく。例えば、「ポップアップ」のことを「特集」と言ったりね。
不良在庫が消化でき、かつ利益率もアップ
―商品を見て驚いたのは、価格の安さです。
ファッション界隈の人たちって大概、洋服を買うのはサンプルセールやファミリーセール、シークレットセールなどですよね。ハイブランドのバッグを格安で手に入れてそれを自慢する人もいる。なんかね、それがダサいことに思えて。この店で僕がやっていることは、業界の垣根を超えた民主化。「サンプルセールでしか手に入らないものをより多くの人が安く買えたほうが結果的によくないですか?」ということを世間に問うてもいるんです。
―その場所が長野県上田市というのも多くの人の興味をそそるポイントにもなっています。
東京から新幹線で約1時間半という距離感もいいんです。都内まで余裕で日帰りできますからね。ユナイテッドアローズの栗野宏文さんがいらした際に、「ヨーロッパでは大都市から1時間半から2時間くらいのところに必ず、いい洋服屋といいレストランがあるんだ。上田には、いいビストロもあるし、EDISTORIAL STOREという、いい洋服屋もある」と言っていただけて。ことあるごとに「上田でなんかやろう!」とおっしゃる。それがとっても嬉しくてね。上田に足を運ぶ目的のひとつにこの店がなれば本望です。
―アパレル製品の過剰生産や、それに伴う在庫の大量廃棄などが社会問題となっているなかで、DEAD STOCKをLIVE STOCKに生まれ変わらせて販売する小沢さんのアクションは、サステナブルな活動ともいえます。ご自身としては「SDGs」などの取り組みについて意識していることはあるのでしょうか。
僕としては、単にひらめいたものを周りの協力を得てやってみただけのこと。例えば、ショッパーをどうしようか考えたときに、世の中ではみ出たモノを再編集してるお店なのに、ショッパーは紙やビニールでしっかりしたものを作るっていうのは違うし、まして、よくあるエコバッグを用意するのも違うなと。そこで、廃棄処分されていた残反をメーカーからもらってきて、それらの生地を縫い合わせてバッグを作ることにしました。その名も”残反ショッパープロジェクト”。すべてが1点モノで、トートが3300円、ショルダーバッグが4400円。いずれも制作に必要な経費を合計した原価販売です。材料はメーカーから無料でもらってきたのに、自分たちが利益を得るなんてそんなことできません。捨てられてた生地を引き取り、メーカーは廃棄料を削減でき、お客さまは1点モノのバッグを手にできる。その流れがいいと思っただけ。とくにSDGsを意識したわけではないけれど、それに当てはまるのであればそうなのかなと。
―「EDISTORIAL STORE」のオープンから1年が経った今、手ごたえはどのように感じていますか。
1周年の記念イベントは都内で開催しました。第一弾は渋谷のパルコ、第二弾は丸の内。このイベントでは、ビームスとユナイテッドアローズのデッドストック品をミックスさせたコーナーを作ったのですが、消化率が想像以上によかったんです。なかには、「こんなに商品が売れた経験ははじめてです」なんて話すスタッフもいたくらい。不良在庫が消化できて、利益率も上げられるということが証明されたら、このメソッドはもっと応用できるはず。なかなかよいビジネスチャンスになる予感がしています。
―これからの展開に期待が持てますね。
DEAD STOCKを生き返らせるこの取り組みをもっともっと世の中に流布していくのが当面の目標。僕とだったら、DEAD STOCKをLIVE STOCKにすることができる。このことを今はいろんな方に話し、伝えています。実際、複数のメーカーさんや輸入商社さんから一緒にLIVE STOCK MARKETをやりたというアプローチもいただいているだけに、これからの展開が、僕自身楽しみです。
1964年生まれ、長野県上田市出身。大学在学中から雑誌「POPEYE」の編集アシスタントとしてキャリアを始動。その後スタイリストとして独立。国内外へのバイイングや自身のブランド運営、ディレクション業など仕事の領域は多岐に渡る。2022年5月に故郷である上田市にて”雑誌の3D化”をコンセプトにしたLIVE STOCK型セレクトショップEDISTORIAL STOREをオープン。
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