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滑走路のランウェイから、ファッションのランウェイへ。ANAとECOALFが描く、新しいアップサイクルのかたち 全日本空輸株式会社 整備センター 業務推進部 事業開発チーム マネジャ 碇浩司さん × 株式会社三陽商会ECOALF 下川雅敏さん

Fashion × Sustainabilityをテーマに、ファッション業界で活躍するトップランナーたちと、ファッションの未来やビジネスの可能性を探る連載企画。今回取り上げるのは、ANA整備センターが取り組むアップサイクルプロジェクト「2ND RUNWAY」と、ヨーロッパ発のサステナブルファッションブランドECOALFによるコラボレーション。航空機整備の現場で生まれる廃材や余剰部材にデザインの力で新たな価値を与え、ライフスタイルグッズなどへ再生させる本プロジェクト。異業種同士の協業は、サステナビリティの可能性をどこまで広げられるのでしょうか。航空業界とファッション業界が交わることで生まれた、新しいアップサイクルのかたちと価値創造の可能性を探ります。

滑走路の裏側で生まれる、「使われなかった価値」

─まずはANAのアップサイクルプロジェクトについて教えてください。

碇さん(以下:碇):羽田空港の新整備場地区にあるANAエアフレームメンテナンスビルでは、ANAが運航する様々な機種の定期点検や修理などを日々行っています。その過程でさまざまな部品が交換され、空の安全を支える役目を終えます。ANAグループでは、役目を終えた部品達を単なる廃材として処理するのではなく、新たな価値を加えるアップサイクルの取り組みを進めてきました。これまでにも様々なアップサイクル商品を開発・販売をしてきましたが、航空ファン向けの商品になりがちだったんです。もっと多くの方々に我々の取り組みを知っていただきたい。そのためには、デザイン性やファッション性という新しい視点が必要だと感じていました。

「こんなにあるんだ」から始まった出会い

─ECOALFはどのような経緯でプロジェクトに参画されたのでしょうか。

下川さん(以下:下川):ECOALFはスペイン発のサステナブルライフスタイルブランドです。創業以来、「Because there is no planet B(第2の地球はないのだから)」というスローガンを掲げ、全アイテムを再生素材・低環境負荷素材で製造しています。サステナビリティとファッションの両立に特化したブランドということで、お声がけいただきました。約1年前に羽田の整備工場内にある部品や廃材の保管庫を見学させていただきました。率直に言うと最初の印象は「こんなにあるんだ」でした。

これまでにも他業種とのアップサイクルプロジェクトに携わってきましたが、想像以上の規模感でした。あれだけ大きな機体で多くの方々の命を預かる航空機ですから、膨大な素材や部品が使われているのは当然なのかもしれません。

碇:そして今回注目したのはANAが運航するボーイング777の客室シートに使われている生地です。汚れや損耗の交換用として保管されていたシート生地の原反(ロール)で、客室仕様の変更に伴って、使われなくなった素材です。

下川:職業柄、生地の原反は見慣れているのですが、まさか航空機の廃材保管庫でそれを見るとは思わなくて。「え、これも使えるんですか?」という驚きがありました(笑)。

航空機だからこそ求められる、高い品質

─素材を見た時の印象はいかがでしたか。

下川:まず感じたのは、素材としてのクオリティの高さです。航空機のシートは、何万人もの乗客が利用しても美しさや性能を維持しなければいけません。そのため、通常のファッション用途ではなかなか使われない高機能素材が採用されています。今回使用した生地はウールとアラミド繊維の混紡素材でした。いずれもECOALFでは使用しない素材ですが、触った瞬間、「これはかなりいい生地だぞ」と思いました。

碇:ウールとアラミドを組み合わせたこの素材は、ウール特有の柔らかな風合いと保温性や吸湿性、高い防臭効果と、アラミド繊維の耐熱性・高強度を兼ね備えています。航空機という過酷な環境の中で長期間使用されることを前提につくられているので、耐久性にも優れています。

アップサイクルを「欲しくなるもの」にする

─商品開発で意識されたことは何だったのでしょうか。

下川:機能性、耐久性、難燃性、強度という面で非常に優れていますし、「航空機品質」ならではのストーリーがあります。しかし、素材やストーリーが良いだけでは商品になりません。ファッションとして成立させるためには、その素材をどこまで見せるのか、どんな素材と掛け合わせるのかを考える必要があります。

今回はかなり悩みました。ただ、ANAのコーポレートカラーのブルーや、ECOALFが得意とするカラーブロッキング(異なる色をはっきり区切って組み合わせる配色テクニック)も活用できたので、結果として、ECOALFらしさとANAらしさが共存するデザインに仕上がったと思います。

碇:驚いたのはバックパックの背面に活用するというアイデアです。「なるほど!」と目から鱗でした。

下川:実はバックパックの背面に使いたい、というのは素材を見て最初に浮かんだアイデアでした。バックパックの背面は最も摩耗しやすい部分ですし、汗もかきますよね。柔らかな風合いに加え、耐久性や防臭効果もあるこの素材を存分に活かせるな、と。デザインのためだけではなく、実用性まで考え抜いた使い方です。また、航空機から着想を得て、今回はバッグだけではなくMA-1タイプのフライトジャケットも制作しました。

─このフライトジャケットにも細かなこだわりがあるそうですね。

下川:MA-1の魅力は、実は袖のパターンにあります。一般的なジャケットは肩から真下に腕がストンと落ちるデザインなのですが、フライトジャケットはパイロットが操縦桿(かん)を握りやすいよう、袖が少し前振りになっています。その形を活かしながら、下袖の部分を大胆に、すべてこの素材にしました。

碇:フライトジャケットの肘部分にレザーのエルボーパッチが付いているのは見たことがありました。その発想を応用して、この摩擦に強い生地を擦れる肘部分に使うというアイデア、さすがです。

─アップサイクル素材ならではの難しさもあったのでしょうか。

碇:それはもちろんありました。航空機整備で発生する廃材や余剰材を使用するので、どの素材をどれくらい使用できるのか、事前に予測するのが非常に困難です。部品交換されないと廃材は発生しませんし、倉庫で長期間在庫になっている部品でも、まだ整備に使用する可能性が有るので使えない事もあります。商品化に最適な素材を、適切な量で仕入れて商品を製造するという通常の商品開発とは違う難しさがあります。

下川:そこは逆に面白さにもなりましたね。例えば今回使用した素材は、ANAが運航するボーイング777などの客席シートカバーの素材だったのですが、ANAの皆さんにとっては聞き慣れた言葉かもしれませんが、「PAX SEAT」という呼び方があるんです。PAXはPassengerの略で、お客様が座る客席を意味しています。ほかにも乗務員専用の座席を「CREW SEAT」と呼んだりするそうなんですが、僕らファッション業界の人間からすると、そういう言葉ひとつ取ってもワクワクするんですよね。今回は採用できませんでしたが、60m程度しかないレアな素材などもあって、「このレアな素材で何が作れるだろう」と考えるところからプロジェクトが始まるのも、アップサイクルならではの魅力だと思います。

異業種だからこそ届く、新たな顧客接点

─完成品をご覧になった時の感想はいかがでしたか。

碇:率直に「かっこいい」と思いました。これまで私たちがつくってきたアップサイクル商品とは全く違う世界観でした。私たちが作るとどうしても生地を全面に押し出すようなものが中心でした。しかし、今回は素材のストーリーを大切にしながら、実用性もあり、デザイン性も高く、日常生活に自然に溶け込んでいる。プロのデザイナーやファッションブランドの視点が加わることで、こんなにも見え方が変わるのかと驚きました。素材のストーリーを活かすとは、こういうことなんだな、と気づかせてもらえたことが大きな収穫でした。

碇:もうひとつ大きかったのは、お客様との接点です。これまでANAのアップサイクル商品は、自社ECやANA FESTAなど空港内の店舗など、どうしてもANAグループのチャネルを中心に展開していました。そのため、航空機やANAが好きなお客様に手に取っていただく機会が多かったんです。

下川:でも今回はECOALFの店舗でも販売します。つまり航空ファンではなく、純粋にライフスタイル視点で商品を選ぶお客様にもアプローチします。

碇:その方々に、この素材やストーリーがどのように映るのか、とても楽しみです。何より弊社の取り組みそのものを、より広い層に知っていただけるきっかけになるのではないかと思っています。

碇:さらに今回は商品の開発だけではなく、ビジュアル制作もお願いしました。撮影現場にも立ち会わせていただいたのですが、どの角度からどう見せると商品特性が伝わるのか、どんなタイミングでどう撮るのか、など、世界観の伝え方やその発想は本当に勉強になりました。異業種との共創には、商品開発以上の学びがあると感じています。

下川:アップサイクルは課題解決だけでは広がりません。環境に良いだけではなく、「欲しい」「かっこいい」「使いたい」と思ってもらうことが必要です。そのためにはデザインの力が欠かせません。今回のプロジェクトでは、ANAさんが持つ優れた素材と背景に、ECOALFのデザインやライフスタイル提案を掛け合わせることができました。まさに異業種だからこそ生まれた価値だったと思います。

滑走路から、街へ、暮らしへ

─今後、この取り組みをどのように発展させていきたいと考えていますか。

下川:これからは、ひとつの業界だけで社会課題を解決するのは難しい時代だと思います。ファッション業界にはファッション業界の知見があり、航空業界には航空業界の知見がある。それぞれが持つ資産や技術を掛け合わせることで、新しい価値が生まれる。その可能性を今回改めて感じました。こうした取り組みが広がり、さまざまな企業同士の新しいコラボレーションにつながっていけば嬉しいですね。

碇:「2ND RUNWAY」は、単に素材を再利用するプロジェクトではありません。この名前には、航空機を支えてきた素材に、その背景や記憶を受け継ぎながら新しい役割を与え、再び社会へ送り出すもうひとつの滑走路を用意したい、という思いが込められています。これからもANAのフライトを支えた素材を、街へ、暮らしへとつなぎながら、さまざまなパートナーと新しい可能性を紡いでいきたいと思っています。

左)碇 浩司さん 全日本空輸 整備センター 業務推進部 事業開発チーム マネジャ 航空機整備に関わる資材・部品の運用管理に従事。航空機整備から生まれる余剰部材や廃材を活用したアップサイクルプロジェクト「2ND RUNWAY」を推進し、航空業界における循環型社会の実現に取り組んでいる。プライベートでは家事・育児の合間にギフトショーなど国内外の産品を紹介する催事などを巡るのが趣味。

右)下川 雅敏さん 三陽商会 事業統轄本部 事業本部 コーポレートブランドビジネス部 エコアルフ課長 兼 エコアルフ・ジャパン 取締役 三陽商会にてライセンスブランドでのエリアマネージャーを経て、同ニューヨーク支社にて海外事業を経験。その後、セレクトショップ事業やブランド運営に携わり、2020年のECOALFの日本ローンチ前から現職に就任。国内におけるECOALF のブランディング・運営を担うほか、企業や行政との共創プロジェクト、クリエイターとのコラボレーションを通じて、サステナブルな消費行動の普及に取り組んでいる。

Photo: Jinya Nishijima