「自分の笑顔を守ることが誰かを守ることにつながる」人気モデルがたどり着いた自分らしい社会とのつながりかた モデル/デザイナー マリエさん
Fashion × Sustainabilityをテーマに、ファッション業界で活躍するトップランナーの方々とファッションの未来や可能性、これからのビジネスのヒントを探る連載企画。2000年代後半にファッション誌の専属モデルおよびTV番組でのタレント活動を通して絶大な人気を博したモデル、マリエさん。2011年にNYに単身渡米しファッションの名門、パーソンズ大学へ留学。帰国後、数年に及ぶ構想期間を経て、2017年にご自身のブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS(パスカル マリエ デマレ)」を設立されました。現在は一児の母としての顔も持つマリエさんに、ファッションとサステナビリティについてお話を伺いました。
自分が本当にやりたいことを模索した20代後半
―モデル、タレントとして人気絶頂の中、2011年にニューヨークのパーソンズ大学に留学されましたね。
もともとデザイナーになりたいという夢がありましたし、ありがたいことにモデルとしてもタレントとしても活動させていただいていたのですが、心身ともにボロボロだったのも事実。改めて自分を見つめ直すという時期でもあり、大きな転換期でしたね。
―そして帰国後、2017年にご自身のブランドを立ち上げられますが、もともとブランドを作ることは視野に入れていたのですか?
いえ、ブランドを作ることにはこだわってはいなかったです。とにかくひとりの働く女性として社会に対してできることはやりたいと思っていました。もし私に音楽を奏でたり、絵を描く才能があったらそれで表現していたかもしれませんが、とにかく私が好きなのはファッションだったので、ブランドを作ることに至りました。いずれにせよ、責任が伴うことなので4年ほど試行錯誤しました。ブランドを始めるにしても、起業して始めるやり方もあれば、アパレル企業に入ってディレクションするというやり方もありました。その検討過程でとある方から「今26歳でしょ?色々やりたいことあると思うけど、結局子供産んで辞めちゃうんでしょ」みたいなことを言われて、すごく悔しくて。さらに「(アパレルは)こういうやり方じゃないとお金にならないよ」とも言われ、誰かのお金で始めると、そういう業界のしがらみみたいな壁にいずれまたぶつかるんだろうなと思い、自分で始めることにしました。それもあってビジネスとしては一歩一歩、手探りで進んでいった感じです。まずはTシャツを一枚作って、それをオンラインショップで販売するというのがスタートでした。
2019年に制作したブランドのファーストビジュアル。
―社会に対して何かしらの発信はしたい。その形がブランドだったということですね。
こういう言い方はおこがましいかもしれませんが、自分がやりたいことは、これまでお世話になった方々への恩返し、みたいな気持ちが強いんです。それこそ18〜23歳ぐらいの頃は、「美しさを保つ秘訣はなんですか?」みたいな質問を毎日2回ぐらい聞かれていたんですが、その都度「お酒飲んでタバコ吸ってクラブで遊ぶことで〜す」みたいなことを本気で言ってました(笑)。でも実際、当時の自分は何も知らなかったし、あの時、ちゃんと教えてあげられなかったというか、誰かの“明日へのヒント”になることをしっかり発信できてなかったな、と。せっかくそういう場所にいたのに、それを良い形で使えなかったことをすごく後悔して。これからやることは自分の責任で、ちゃんと伝えていきたい。それが私にできる恩返しであり生きる責任だと思っています。
結果としてついてきた「サステナビリティ」という言葉
―ブランド立ち上げ当初のお話を聞かせてください。
ブランドを立ち上げた頃に考えていたのが、地方分散化社会に向けてファッションでできることはないかな、ということでした。震災もあり、都市一極集中型に対する疑問もありましたし、自分が服を作るなら東京だけで売るということに違和感がありました。そこで地方のセレクトショップを盛りあげることはできないかなと考え、とあるバンドのツアーバスを借りて、北は青森から南は鹿児島まで、ファッションツアーと題して2ヶ月間、全国を回ったりしました。当時はラジオ番組もやっていたので、1週間のうち1日だけ東京に戻り、各地の様子をラジオで発信していました。他にも縫製工場なども巡りました。
全国16都市のセレクトショップ、工場、アトリエを巡ったファッションツアー初日の様子。(2017)
―縫製工場などはご自身で探されたのですか?
これもラッキーだったんですが、パーソンズ卒業後にテレビで日本のファッションを世界に伝えるという番組を担当させてもらったことがありました。その際、日本各地にある縫製工場を取材させていただいたんです。日本には素晴らしい職人さんたちがたくさんいて、自分もいつかブランドを始めたらお願いしたいな、と思っていたので、その方々に再び会いに行った感じです。でもすぐに取引が始められるほどでもなかったので、工場を巡る中で捨てられてしまう素材を譲っていただき、そこからアイテムにしていくということを始めました。その活動を知った友人が「君がやっていることはサステナブルって言うんだよ」って教えてくれて、へーそんな言葉があるんですね!って。
ファッションツアー中に視察に伺った染料・染め加工会社の和歌山吉田染工さん。(2017)
―サステナビリティというテーマが先にあったわけではないんですね。
そうですね、言葉が最初ではなかったというか、経験や行動が先にあったというか、自分がやりたいこと・必要だったことが結果、サステナビリティにつながっていた、という感じです。それはオーガニックとの出会いも同じで、それこそアメリカに留学する前は体もボロボロで、22歳の時に子宮筋腫のアーリーステージと診断され、生理不順も当たり前、毎日30錠ぐらいの処方薬漬けの日々。忙しさもあったけど、正直、留学も夢のために!というよりも、このままではいけないという思いの方が強かったんです。
日本にもたくさんある、“気づき”となるコミュニティ
留学当時、ニューヨークではオーガニックブーム真っ只中。いろんな人が健康的な生活にシフトしていました。自分の体調を良くするために食生活を改めてみたり、オーガニックな食材を買ったり。私もそのプロセスを体験し、徐々に自分の健康を取り戻しいていく中で、それが結果的に地域の循環や地球の健康にもつながっていることを知りました。なので、地球を良くしたい!とスタートしたのではなく、本当に自分を治したい!と選んだチョイスが実は地球の環境を守ることにつながっていたんだと実感できたんです。
だからと言って、あまり住んでいる環境のせいにしたくないんです。もちろん私がオーガニックな生活に出会ったのはニューヨークでしたが、決してニューヨークじゃなきゃできないわけじゃない。海外に行かないと経験できない=日本にいたらできない、ってことではなくて、日本にも実際そういうオーガニックな生活を送っている人はいるし、あまり知られていないだけで、同世代のおしゃれなコミュニティもたくさんあるんです。肝心なのはどんな人たちとつながるか。私も帰国してから、「日本にも仲間いるじゃん!」って思える人たちとたくさんつながったので、そのネットワークをもっとしっかり紹介していきたいです。
時代とともに変化する「かっこいい」の定義
―昨今、若い方々もサステナビリティに関心が高いと聞きます。マリエさんはどう感じられますか?
先日もとある学生さんがお母さんと一緒にトークイベントに来てくれて、お話しました。「“オーガニック・留学”で検索したらマリエさんが出てきました!お母さんに聞いたら有名な方だって知りました!」って(笑)。他にもイベントなどで20代の方々と話す機会はあります。その中で確実に感じるのは、かっこいいの定義が変わってきているなってことですね。私たちが若い頃はちょっと悪いことがかっこいい、みたいな風潮がありましたよね。たばこ吸って、酔っ払って、クラブで踊る!みたいなのがイケてるっていう幻想が(笑)。今の若者たちは酔っ払って羽目を外すことを、恥ずかしいことだと思う方が多いように感じます。最近、海外でもコーヒーパーティーみたいな、昼間のカフェでコーヒー片手にガンガン音楽かけるDJイベントが流行っていますが、昔に比べると“クリーンに遊ぶ”という傾向が強まっている気がします。ファッションもまさに同じ。ただかわいくて安いからといって飛びつくのではなく、ものの背景やストーリー、ブランドのフィロソフィーもしっかり知りたいという方が増えている気がしますね。
2021年、JCI国際青年会議所でのサステナビリティ講演会に登壇。
―母になって何か心境などに変化はありますか?
これも最近よく聞かれるんですが、自分ではあまり変わってないかなと思います。強いて言えば、前ほど“気にしなくなった”とか“ゆるくなった”とかですかね。以前の私だと、子供に与えるものは全部無添加!使う食器もBPA Free!この子をオーガニックに育てるためには無菌状態にしないと!って、かなりストイックになっていたと思います。でもいくら調べて、いくら議論しても、議論しつくせないというか、理想論だけでは目の前にある生活を切り盛りできない。現代社会で生きていくにあたり、何にこだわり、どこまでしがみつくか、何を手放すのか、そのバランスを取ることが一番難しいし、一番大事なことだと思っています。
笑顔が増える方を選び、進む
―マリエさんの中でそのバランスを保つための軸は何になりますか?
とにかく、笑顔が増える方を選ぶ、ってことですね。考えすぎて、またこれ買っちゃったな、とか、こういうもの食べさせちゃったな、など自己嫌悪になると、それが子供にも伝わっちゃうし、子供の笑顔も奪っちゃう。ママが笑顔でみんなハッピー、が一番いいと思っているので、自分が笑顔でいられるための選択と許容、という感じですね。サステナビリティもそうですが、オーガニックやヴィーガンなど、そういうライフスタイルを送っている方々には、いろんなタイプの方がいると思うんです。思想的な理由もあれば宗教的な理由、もしくはアレルギーなどの生理的な理由の方もいる。それをひとつの言葉でくくり、ひとつの正解を出すのは難しいですよね。
ことファッションで言えば、例えばエコファーとか。動物愛護の観点からすると「エコファーを推奨します」となりますが、エコファーはエコファーでマイクロプラスチックの塊だし、開発に至るまでの環境負荷を考えると、どっちがいいの?と。耐久性で言えばリアルファーもちゃんと使えば長持ちするし、直せたりもする。エコファーのクオリティが上がれば上がるほどリアルファーにしか見えない、ってファッションが目指すべきところなのか?そもそもファッションはビジュアル的な要素が強いので、ファーコートがかわいい!って思っている10代の女の子たちのファーに対する憧れからアプローチしなくちゃダメじゃない?などなど。いろんな視点があるからこそ議論すべきなんですが、必ずしもひとつの答えでみんなハッピー、とはいかないですよね。自分の軸をちゃんと持つことが大切なのかもしれません。
2025年の新作、麻100%ワッフル素材のバスローブ。ピスネームも100%リサイクル素材を使用。
時代の流れの中で、自分なりの泳ぎ方を見つけてほしい
とにかく、ネットに溢れている情報を鵜呑みにせず、自分の経験や感覚をベースに自分で調べる、Do your own research!ということが大事。私も実際に自分でブランドを始めてみて、見えてきたことがたくさんあります。正直、タレンドだった時は言っちゃいけないこともたくさんありました。でも今は自分の責任でブランドをやっているので、自分自身の本当の声を言葉にして発信できている気がします。
―実体験に基づく発信は説得力がありますね。
それももう何周も回った感じなんです(笑)。昔は何か見つけた時、なんでわかってくれないの!?こんな良い方法があるのに!と思ったりしていました。でも今はその時期を超え、さらに「結局、伝わる人にしか伝わらないんだな」というある種の挫折感を感じていた時期も超え、もう勝手に発信しているって感じですね(笑)。気にしていたらキリがないというか、寂しくなっちゃうんです。無責任に聞こえちゃうかもしれないけど、逆に自分の責任でしかない、ってことで、自由になれている気がします。
―今後やっていきたいことはありますか?
私のブランドは、基本自社のオンラインショップとセレクトショップさんへの卸し、時々ポップアップをやったりするぐらいの小規模ブランドです。立ち上げた当初はブランドを大きくしたいと思っていましたが、今は全然そんな気はなく、続けていくことの方が大事だと思っています。今、世の中全体が良い方向に進もうとしているのは確かだと思うので、その流れの中で、誰かのひとつの新しい選択肢になれたらいいな、と思うぐらいです。
ご自身のアトリエにて。(2022)
あとは子供たちの未来のために、それこそ教育なども含め、いろんな人としっかり考えて向き合っていくプラットフォームというかメディアのようなものは作っていきたいと思います。それと、日本にはとてもお世話になったと勝手に感じているので、日本と海外をつないでいくようなことはやっていきたいなと思っています。
マリエさん 東京都出身。フランス系カナダ人の父と日本人の母とのハーフ。10歳ごろからモデルとして活動し、10代後半には人気雑誌の専属モデルやTVでの出演など多方面で活躍。2011年に単身渡米し、NYにあるファッションの名門校「パーソンズ美術大学」へ留学。帰国後、2017年に自身がデザイナー兼会社代表を務めるアパレルブランド「PASCAL MARIE DESMARAIS (パスカル マリエ デマレ)」を設立。2020年から環境省の森里川海アンバサダーも務める。2022年に第一子を出産。
Photo: Shota Kikuchi
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